「しくじらない先生 俺みたいになれ!!」。プロ野球12球団の新人選手研修会が12日、都内のホテルで行われ、昨季限りで現役を引退した前中日の山本昌広氏(50)から、プロ野球界を生き抜くすべを伝授された。プロ通算219勝、現役生活32年の経験則からの“しくじり回避講座”を受講。球史に残る“レジェンド”からの約45分間の特別講義を、各選手は胸に刻み込んだ。

 「でかっ」。“しくじらない先生”の講師役を務めた山本氏とすれ違った新人選手から、感嘆の声が漏れた。プロ野球界を32年間生き抜いた肉体と存在感は、圧倒的だった。約45分間に及んだ特別講義。全研修を終えた新人選手は「山本昌さんの話が印象的だった」と声をそろえ、思い思いの内容を心に書き加えた。

 巨人1位の桜井俊貴投手(22=立命大)は「心構えや普段の練習の考え方」に感銘を受けた。山本氏は1軍と2軍の差は「平均点の差」と指摘。不調時にいかに力を出すか、マイペースのススメも説かれ、桜井は「今後、苦しい時もあると思いますが、乗り越える参考にする」と刻んだ。

 ロッテ1位の平沢大河内野手(18=仙台育英)が挙げたのは「きっかけ1つで人間は変われる」だった。山本氏は5年目にドジャース傘下のマイナーに所属。アイク生原氏に出会うとともに、野手から伝家の宝刀・スクリューを学び、飛躍を遂げた。「そういうきっかけを自分も大事にしたいです」と話した。

 故障に反応したのは、阪神1位の高山俊外野手(22=明大)だった。「僕も今、ケガ明けなので心に響いた。2度とけがを繰り返さないように、このケガを最後にできるように」と強く誓った。広島1位の岡田明丈投手(22=大商大)、中日1位の小笠原慎之介投手(18=東海大相模)も同調した。

 1年の重みを、DeNA1位の今永昇太投手(22=駒大)はかみしめた。「『プロ野球生活は意外と短く、あっという間』という言葉が一番印象に残った。1日1日の内容を濃くすることで、今後が変わると感じた」と振り返った。山本氏からの「5年後、ここにいる3分の1はいないです」の言葉は鋭かった。

 山本氏の言葉に、夢は大きく広がった。平沢が「40歳くらいまでやりたい」と言えば、桜井は「50歳を目標に」と熱く語った。レジェンドからルーキーへ-。プロ野球の歴史がまた、紡がれた。【久保賢吾】

<しくじり回避10カ条>

 ◆実力 1軍、2軍の選手の差は、平均点の差。悪い時にどれだけやれるか。野球選手というのは、悪い時の方が多い。悪い中で力を出すのがプロ。

 ◆転機 米国修業時代、投手に教わった変化球はものにできなかったが、野手に教わったスクリューが曲がってくれた。1Aの体が大きな4番打者に初めて投げた時に、空振りが取れた。その1球があるから今がある。

 ◆猶予 ここにいるメンバーの3分の1は5年後にはいない。思っているほど時間はない。5年は、そんなに長くない。

 ◆故障 壊れなければ、すべての選手にチャンスがある。球団はみんなに期待はしているが、あてにはしていない。(異変があれば)勇気を持って伝えた方がいい。

 ◆生活 生活のために野球をやっている。モチベーションが切れるわけがない。食べていくための道。働かなきゃいけない。それが仕事だったから。

 ◆練習 とにかく走った。信じられないかもしれないが、当時はプロのキャンプにウエート場がなかった。打って投げて走った。

 ◆球速 ルーキー時代130キロ出なかった。球場職員の人が、ナゴヤ球場のスピードガン表示を切ってくれたほどだった。

 ◆要領 抜き方を覚えた方がいい。すべて全力だとキャンプで壊れる。サボれと言っているわけではないが、うまくやって欲しい。

 ◆確率 確率を上げることを意識した方がいい。米国修業時代は「ストライクを投げなさい」と言われた。ストライクを6割以上投げた投手は、その年の防御率上位4人だった。

 ◆年俸 1年目は360万円。5年目は8月から5勝したら、すごく上がった(400万→1100万円)。これぐらいの活躍で上がるなら、もっと頑張ろうと思った。