野球観戦に新たな価値を創造するコンペ「ジャイアンツハッカソン」に挑戦した日刊スポーツは、4月9日に行われた本番に臨んだ。徹夜で開発し10日のプレゼンを迎える。苦戦の中、深夜のひらめきが流れを変えた。(敬称略)

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 日刊スポーツの資産である巨人関連のビッグデータを活用し、試合中のコンシェルジュサービスを提供する。大まかなアイデアを持って会場に向かった。

 舞台は天王洲アイル。主催のサムライインキュベートが構えるオープンスペースだ。9日の朝9時前。足を踏み入れ目を奪われた。ワンフロアぶち抜きで、カラフルなテーブルが広々と配置してある。洋楽が流れ中央には飲食が用意してある。奥には畳敷きの和室も。自由な発想は自由な空間が後押しするのだと感じた。参加者の個性にも驚いた。ラフな服装。なぜかヘルメットをかぶっている人もいる。頭頂部にはカメラのようなモノが付いている。外国人の開発者も多い。何をぶつけてくるのか? 13チームの勝負が始まった。

 初日の最後に中間発表があった。持ち時間3分のプチ・プレゼン。アイデアを煮詰めた。昼下がり、各チーム10分間の「メンタリング」が予定されていた。メンタリングとは、開発の過程を報告し、現状の課題などを相談するもの。奥の座敷に入った。

 「高品質のビッグデータを活用」と強調したが、正直、メンター(指導者)の反応は薄いように感じた。他チームからは、大きな笑い声も聞こえている。焦りは中間発表に伝染した。普段、人前で発表する機会は皆無。しかも時間は3分しかない。ハッカソンでは簡潔に伝える力も問われる。

 パワーポイントでの発表。恥を忍んで公表するが、「パワポ」なるものを初めて触った。セット完了で「さぁ」という直後。私の作った画面が飛んでしまった。「終わった…」。持ち込んでいた新聞を掲げた。「今日の紙面です。ここには数十本の巨人情報が掲載されています。弊社は日々、データベースに情報を格納しており、今、40万件ほどのビッグデータを持っています。活用して、何かを作ります!」。とっさに浮かんだ苦肉の策。切り抜けた…には、ほど遠かった。

 失意の夜が更けていった。同僚の記録担当、斎藤との雑談は3時間を超えていた。「参加は無謀でしたかね」「画面、飛んだなぁ」「何か足りないですよね」「野球が大好きな人には喜んでもらえるか。でも、興味の度合いによるな」「トイレやビールの情報って、役立つはずですよ。後は?」「居酒屋とかタクシーとか…ん?」。斎藤のひらめきは22時30分。開始から半日以上が過ぎていた。

 「プラットホームを作るんだよ。遊休資産をマッチングする。UBER(ウーバー、※1)やAirbnb(エアービーアンドビー、※2)と同じ発想で。野球場には遊休資産がある。年間シートの空席だ」

 どうしても出なかった「逆側の発想」が生まれた気がした。チケットを転売したい年間シート保有者、球場を埋めたい主催者、特等席が安く手に入るファン。グッズ、弁当などの売り上げが上がる球場。「四方良し」の関係ができる。線でつながった。

 アドレナリンが出た。本番のプレゼンは5分間。苦戦からのひらめきを起承転結にまとめ、文書を作った。徹夜のグループを邪魔できない。ストップウオッチを手に、猿ぐつわよろしくタオルを口にくわえ、書いて削り、モゴモゴ読んで…を繰り返した。午前5時、176行の文書が完成。早口で4分37秒。いける、と思ったと同時に机に突っ伏した。人間と睡魔との攻防は、緊張の糸が支配する。(つづく)【宮下敬至】

 ◆ハッカソン 「Hack(ハック)」と「Marathon(マラソン)」をあわせた造語。短期、集中的な共同作業でソフトウエアを開発する技術とアイデアを競い合うイベント。

 【注】※1は空いているマイカーをタクシーとして利用できるサービス。ユーザーとの位置情報がマッチすればタクシーを探すことなく乗れる。

 ※2は宿泊希望者に対し、空いている自分の部屋を提供するシステム。近年ホテルの稼働率がアップし予約が困難な上、ホテルより安価とあり人気を博している。※1とともに米国が発祥。