プレーバック日刊スポーツ! 過去の10月9日付紙面を振り返ります。2012年の1面(東京版)はソフトバンク小久保の引退試合でオリックス西がまさかのノーヒットノーランでした。

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<ソフトバンク0-3オリックス>◇8日◇福岡ヤフードーム

 こんな“引退試合”見たことがない! 今季限りで引退するソフトバンク小久保裕紀内野手(41)が、レギュラーシーズン最後のオリックス戦でプロ初のノーヒットノーランを食らった。「4番一塁」でフル出場も、オリックス西勇輝投手(21)の前に3打数無安打。記録達成の瞬間はベンチで苦笑いし、41回目の誕生日祝いも兼ねた引退セレモニーでは号泣。語り継がれる引退試合となった。

 涙で景色がぼける? 感情が押し寄せる? ない、ない。9回2死。ベンチの小久保は20歳下の西の快投に苦笑いした。「しかし、オレも持ってるわ。不謹慎やけど、ここで本当になったら波瀾(はらん)万丈やなと思ったけど。引退試合の日にありえんで。今まで1回も経験ないのに、ここであるか?」。通算2057試合目で、初めて無安打無得点に遭遇。アンビリーバブルな引退試合に、もう笑うしかなかった。

 小久保の野球人生では、節目でサプライズがついて回る。03年3月6日の西武とのオープン戦で右膝靱帯(じんたい)を断裂。リハビリを経て、1年後のまったく同じ日に巨人小久保として当時のエース斉藤から復活本塁打を放った。今年達成した2000安打にも、王手をかけたところで腰椎椎間板ヘルニアを発症した。最後も驚きの試合になった。

 自身も3打数無安打だったが「今日の対戦は本当にうれしかった」と振り返った。前日7日から「真剣勝負がしたいね」と話していただけに、西の快投には賛辞を惜しまなかった。ただ「誰か1本くらい打つやろうと思ったけど」という言葉も付け加えた。CSに向けた大事な時期に記録をアシストした自軍の後輩に、物足りなさも感じた。

 主将として厳しい訓示をしよう。そう考えていたが、試合後のセレモニーを見てやめた。いつもはもの静かな秋山監督が選手にマイクを突きつけ、ファンの前で1人ずつCSへの決意を語らせた。いわば公開反省会だった。「僕は恥ずかしいプレーをしたくないと思ってやってきた。最後の最後に説教で終わるところで…秋山監督に感謝です」。

 引退あいさつはさらりとこなしたが、胴上げにマリナーズ川崎や斉藤リハビリ担当コーチまで加わると目元がひくひくした。背番号と同じ9度、宙に舞い、王球団会長が花束を持って登場すると涙腺は決壊。6歳から女手一つで育ててくれた母利子さんに抱きつき、泣きじゃくる姿は、まるで子どものようだった。

 通算8368打席に立ち、413本塁打を含む2041安打、1304打点、打率は2割7分3厘。19年間の現役生活に「コンマ」を打った。ただ、小久保の最終章には特別編がある。CSを勝ち抜き、連続日本一へ。「もう1度皆さんの前でこのユニホームを着てプレーできることを目標に戦ってきます」。完全なピリオドを打つのは、もう少し先だ。

 ▼小久保打撃成績

<8日>

(1)二飛(2)一飛(3)遊ゴ

<今季>

 103試合、打率.239、4本塁打、34打点

※記録と表記は当時のもの