巨人ファンのはるか頭上を、左翼ポール際のかなた上空を大飛球は越えていった。打球の主はマギー。1点先制し、なおも初回1死一、二塁で、ヤクルト石川の内角カットボールを完璧に捉えた。飛距離は十分だがリプレー検証に持ち越された。ベンチで待つ間もヘルメットを脱ぎ、火照った体を頭から冷ますように悠然と座った。

 「走りながらだから、よく見えなかった。万が一、ファウルになれば打席に立たないといけないので気持ちを切らさずにいた」。戦闘態勢を解かず、裁定を待った。結果は3試合ぶりの4号3ラン。頭をそり上げた助っ人がチームの根っこに活力をもたらした。

 開幕後10戦で本塁打が出なかったが、初本塁打以降は13戦で4発と量産。シーズン換算なら24・9本だ。実は大台の30本には強いこだわりがある。

 春季キャンプ中に約束を交わしていた。丸刈りに近い朝井打撃投手に呼び掛けたという。「彼に『俺が30本塁打以上打ったら、髪の毛をそれ。30本打てなかったら…俺は髪の毛を伸ばす。ディール(取引成立)だ!』と言ったんだ」。どのように髪を伸ばすか、具体的な方法については言及しなかったが、男に二言はない。熱い約束を伝え聞いたマギーと同じ髪形の津崎国際部長も「頼もしいね。30本、打ってほしい」と期待を絶頂までに高める。

 阿部が休養で欠場した一戦だからこそ活躍が輝かしい。頭上に降り注ぐ喝采を浴びながら「打点を挙げるのが自分の仕事」と堂々と言った。髪ってる、いや神ってる打棒で広島を猛追する。【広重竜太郎】