阪神上本博紀内野手(31)が、巨人25回戦(東京ドーム)でおとこ気アーチを放って、宿敵に引導を渡した。1点リードの5回1死走者なしで対峙(たいじ)したのは、巨人畠世周投手(23)。上本は前日9月30日に畠から頭部死球を受け緊急交代していたが、「中0日対決」を9号ソロで制した。

 優しさが詰まった大飛球だ。上本はためらうことなく左足を踏み込み、巨人畠の真ん中直球を強振した。タイミング、バットのぶつけ方はともに完璧。打った瞬間、東京ドームの左半分から歓喜の雄たけびが響き渡る。左翼席中段まで届かせる9号ソロ。おとこ気あふれる1発に、指揮官も思わず胸を熱くした。

 金本監督 昨日ああいうことがあって、一発で特大ホームランを打ってね。今季一番格好いいホームランだったね。

 前日9月30日の巨人戦。1回にバントを試みた際、右腕畠のカットボールが左耳付近に直撃。緊急交代して東京都内の病院へ直行した。軽い打撲と診断され、この日も先発出場。1点差に迫られた直後の5回、2番手で畠が再びマウンドに上がってきたからドラマが生まれた。5回1死、その初球を左翼席へ。オレは大丈夫だよ-。そう伝えるかのような弾道だった。

 「うまくよけられなくて、ゴメンな」

 同じ広島生まれの畠に、上本はそう伝えたという。練習前のアップ中、直接謝罪を受けた時のことだ。「当ててしまってすみません…」。恐縮する23歳に優しく言葉をかけ、グラウンドに立っていた。3回2死一塁では右前打を放ち、先制劇をアシスト。特大弾の後は右腕を気遣ってか、表情を変えずにダイヤモンドを回った。再び畠と対決した7回無死二塁では指揮官から「バントはきつい」と配慮され、サインは進塁打。それでも自らバントを試み、内角高めの直球にも動じず最後は四球を選んだ。

 試合後、金本監督は驚きを隠さなかった。指揮官自身、08年に同じ東京ドームで巨人木佐貫から頭部死球を受け、次の打席で門倉から1発を放っている。ただ、上本の1発とは質が違ったという。「オレのはまぐれだから。逃げながら打っているから。(上本は)ちゃんと踏み込んで打っていた」。その度胸で元祖鉄人、そして野球ファンをしびれさせた。【佐井陽介】