野球取材の現地直送コラム「旬なハナシ!」を今年も定期的にお届けします。春季キャンプ目前。今季、金本阪神の野球はどう変わるのか? アンサーの1つとして「秘策」を紹介。機動力を鍛え、「2ランスクイズ」へのチャレンジです。実は昨年11月の安芸秋季キャンプで実戦打撃の練習中に、ひそかに試みていました。二塁走者の植田海内野手(21)に本塁突入を指示。2月の沖縄・宜野座でも取り組むことになりそうです。

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 泥まみれのCSでDeNAに敗れてから、あっという間に3カ月あまりが過ぎた。いよいよ春季キャンプも間近。待ちに待った球春到来である。知人から、たびたび聞かれる。「今年の阪神は強そうやな。どや?」。大砲ロサリオ、復活を目指す藤浪ら見どころは多いが、個人的に楽しみな「伸びしろ」を挙げたい。金本監督の理想が垣間見えたのは2カ月前だ。「秘策」と言っていい。取材ノートを繰る。

 【17年11月13日安芸】実戦打撃の練習だ。1死二、三塁のケースで打席の梅野に送りバントのサイン。的確に三塁前まで転がす。サードの糸原は本塁をチラリと見て一塁に投げようとした。その瞬間だ。二塁走者の植田が三塁ベースを全速力でオーバーラン。気づいた糸原が慌てて、タッチしにいった…。

 何とか植田は三塁に戻ったが、実はコレ、50メートル5秒8の快足に託す2ランスクイズだった。久慈照嘉内野守備走塁コーチも言う。

 「年に何回も使えるものじゃないけど、作戦の1つとしてね。いかに1点を取るかをやっていかないと。足の速い選手にやらせる可能性はあるだろうね」

 走者二、三塁で遊撃手、三塁手が前進すれば、三塁ベースが手薄になる上、三塁手が捕れば二塁走者の動きも見えない。「死角」を突いた策なのだ。植田もうなずく。「あれで2点入るなら大きいですね。(糸原さんが)一塁に投げていれば行けそうな感じがありました。広島みたいな野球ですよね」。言葉を借りるまでもなくリーグ2連覇中の広島のお家芸そのものだ。久慈コーチも苦い記憶をたどる。

 「何年か前、カープに2ランスクイズをやられた。(敵に)気にさせるだけでも違う。スコアラーも見に来るし、春のキャンプでも継続してやっていくこと」

 14年7月26日広島戦。同点に追いついた直後の8回裏1死二、三塁で菊池のバントを捕った一塁ゴメスは本塁送球をあきらめ、一塁送球も俊足菊池がセーフ。その間に二塁走者の木村は一気に本塁へ。2ランスクイズを決められて痛恨の敗戦。ショックが尾を引き3連敗まで伸びてしまった。

 今年に入り、金本監督は「なかなか、いまのチームの戦力的に足を使う戦術ができなかった」と話した。新人の熊谷、島田も俊足を買われて1軍キャンプに名を連ねる。機動力があれば塁上をかき回せる。韋駄天(いだてん)が駆ける新たな疾風を、楽しみに待つ。