阪神ドラフト6位の東海大九州・小川一平投手(22)が、野球ができる喜びをかみしめた。入学直後の16年4月、熊本地震で被災。住み始めたばかりの寮を出ると、目の前のアパートが崩落していた。「あの光景は…。この世の終わりに感じました。絶対に忘れられないんです」。

実家のある神奈川に帰ったが、いてもたってもいられなかった。1人でも多くの人を助けたいと、東京・渋谷のスクランブル交差点で声を張り上げた。「募金へのご協力、お願いしまーす!」。立ち止まって財布を広げてくれる通行人に頭を下げた。財布の中身全てを募金箱に入れ「辛いと思うけど、頑張ってね」と励ましてくれる人もいた。地面を見ながら、涙目にもなった。「ちょっとずつでもいいんです。前に進んでいければ」。

「夢の祭典」に背中を押された。昨年7月14日、熊本・藤崎台球場で開催されたオールスター第2戦。観客席でグラブを持ち、巨人菅野や広島大瀬良、DeNA山崎康らの投球を食い入るように見つめた。

「ボールボーイしてたんです。補助員で、スタンドから見てました。オールスターが熊本に来て、子どもたちも元気に笑っていた。プロ野球って夢があるなぁって。自分も頑張ろうと思った瞬間でした」

ドラフト上位5人の高校生とは違い、甲子園経験はない。「そこは関係ない。プロに入ってやるべきことに集中していきたい」。今度はプロ野球選手になって熊本に夢と希望を与える番。恩返しを胸に、タテジマに袖を通す。【真柴健】