これがドラフト1位指名競合確実の実力だ。東京6大学野球秋季リーグ戦は19日、開幕し、早大・早川隆久投手(4年=木更津総合)が明大を2安打1失点に抑えた。最速152キロ直球にキレのある変化球を交え、17奪三振。9回2死から点を取られ、リーグ戦初の完封こそ逃したが、文句なしの完投勝利を挙げた。プロ全12球団のスカウトが集まる中、大学ラストシーズンの好スタートを切った。

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どれだけ三振を奪っても、早川はあまり感情をあらわにしなかった。淡々と左腕を振った。初回先頭、明大・藤江を空振りで3球三振。奪三振ショーの幕開けだった。最速152キロ直球に、右打者の懐へのカット、スライダーが切れる。カーブで緩急をつけ、チェンジアップで奥行きも使った。9回2死から四球を出し、西川の適時二塁打でリーグ戦初完封は逃した。それでも、次打者を三振締め。「調子はそこまで良くなかったです。体重が前に乗らず、球威が出ない。コースに丁寧に投げようと」と試合後も淡々と振り返った。

快投の裏には、精神面の成長がある。「今までは意気込んで試合に入りすぎてました。キャプテンの自分が冷静じゃないと、チームも冷静になれない」と投げ抜いた。実は、逆境を追い風に変えた。

自己分析は「神経質すぎ」。ルーティンは20以上にのぼる。登板前に聞く曲はクイーンの「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」「ウィ・ウィル・ロック・ユー」「伝説のチャンピオン」「ドント・ストップ・ミー・ナウ」の4曲。それに、E-girlsの「出航さ!」。食事は、登板2日前はタンパク質30グラムに、米は普段より200グラム増の800グラム。前日はチャーハン400グラムが定番。消化を考え、豚肉を選ぶ。

ただ、厳密な自己管理の一方「タフさも必要。決まり事をやらないと良い投球ができないのではと不安になる」と打ち明けてもいた。そんな中、コロナ禍で外出不可に。チャーハンのうまい、なじみの定食屋に行けず、ルーティンの維持が難しくなった。ならば、与えられた環境でやるだけだった。

完封目前の失点に「後半、少し球が暴れました。詰めの甘さが課題」と修正点も自覚する。それでも、小宮山悟監督(55)からは「あれだけのボールは投げると信じ、送り出した。無双状態。最上級生の自覚が出た」と最高の褒め言葉をもらった。たくましさが加わり“早川無双”が誕生した。【古川真弥】

◆早川隆久(はやかわ・たかひさ)1998年(平10)7月6日、千葉県生まれ。木更津総合では1年秋からベンチ入り。2年春と3年春夏に甲子園出場。早大では1年春から東京6大学リーグに登板し、通算47試合で9勝12敗、防御率2・97。3年時には大学日本代表として日米大学選手権優勝に貢献。180センチ、76キロ。左投げ左打ち。

▽広島苑田スカウト統括部長「直球の球持ちがいい。(奪三振は)直球、変化球ともキレがあるから。間違いなく(1位指名で)重複する」

▽ヤクルト小川GM「右打者からカット、スライダーで空振りを奪えたのは、キレがあるから。スピード、制球、全てにおいて申し分ない」

▽ロッテ榎チーフスカウト「プロでも、左で150キロはそういない。変化球も多彩。カットは直球の軌道から来る。バランス良く投げ、メリハリがある」