今季限りで現役を引退する阪神藤川球児投手(40)が劣勢の展開で、「魂の12球」を投げた。

5点を追う6回に1軍復帰後、初登板。約2カ月ぶりのマウンドとなったが、1回を1安打無失点に抑えた。自らの引退試合となる11月10日の巨人戦(甲子園)まで、誇り高き猛虎の守護神は、全力投球をファンに披露する。

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沈みかけた甲子園の空気が、一瞬で変わった。「ピッチャー、藤川」。聞き慣れた登場曲とファンの熱気に包まれて、藤川が6回のマウンドに立った。「マウンドに近づいていくと、やっぱり聞こえなくなりますね。冷静でいて、だんだん、スイッチが入るように。やっぱり習慣ですね」。8月10日DeNA戦(横浜)以来の1軍戦。気持ちは熱くも落ち着いていた。

先頭の三好には直球が高めに浮き、4球目を左前へ運ばれ、小さく苦笑い。続く上本は146キロ直球で遊直。小幡が一塁から飛び出した三好を刺すと、笑顔でねぎらった。九里には制球良く直球4球を投げ込み、見逃し三振。最速は147キロ。魂の12球だった。

「まだ体はかみ合ってはいないと思うんですけど。最後に向けてのね。今日できることを、しっかりやっていって」。満身創痍(そうい)の中、戦う理由がある。負けていても応援してくれるファンのため、後を託す後輩たちのため。この日はリリーフの1人として、チームで戦う大切さを再確認した。「あくまで1人ずつで働くんじゃなくて、みんなでタッグを組んで働けば、ゲームが生きた状態で戦える。そういうものの大切さとかは、終わった後に話をしました」。言葉と投げる姿で、まだまだ伝えたいことがある。

この日の試合前、藤川はお忍びで「チームショップアルプス」を訪れていた。自身のツイッターには「今日から僕の引退記念グッズの発売 何故だか嬉しく思えません… これで終わりって事ですもんね(原文ママ)」と複雑な思いを投稿。「LEGENDARY CLOSER(伝説の守護神)」と書かれた自身のグッズを前に、近づいてきた引退の日を実感していたようだ。

矢野監督は藤川の存在の大きさを肌身に感じた。「1回1回がファンの人にとっても特別だし、球児にとっても俺らチームメートにとっても特別な登板になっていく。そういうところではいい空気感を作ってくれた」。敗れはしたが、中継ぎが踏ん張り、最終回に反撃を見せた。「チームを元気づけたり、勇気づけたりという役割もあると思うんでね。投げられる限り、頑張っていきたい」と藤川は言う。1試合でも多く、ともに勝利を喜びたい。【磯綾乃】