ひとりぼっちじゃない。1点差に迫られた9回1死一、二塁。巨人田口麗斗投手(25)が、緊迫のマウンドに上がった。2球で追い込むも、暴投で二、三塁。2死二、三塁からは、初球から3球連続でボールとした。剣が峰の状況でも、ファンは温かい拍手で後押ししてくれた。後ろを守る野手は、鼓舞してくれた。

最後のアウトを見届けると、田口はホッとした表情を浮かべた。

開幕から先発として回ってきたが、再調整で8日に抹消。セットアッパーの中川が故障で離脱した影響で、今度は中継ぎとして18日に昇格。そこから怒濤(どとう)の5連投も「無限の体力なんで。全部投げるつもりで準備していたので」。プロ2セーブ目、今季初セーブを挙げた。原監督も「彼は『毎日でも放りたい』と。どういうポジションでも前向きにやってくれてるというのは、チームにとって非常に献身性のある素晴らしい投球」とフル回転の左腕に賛辞を贈った。

開幕前、1本の作品に出会った。スウェーデン映画「幸せなひとりぼっち」。孤独な老人が隣人との触れ合いで、生きる活力を再発見する内容に、涙した。今年、第1子が誕生したことも重なった。「朝起きたら、子どもがスヤスヤと寝ている。そんな姿を見て、改めて自分も1人ではない」。人は誰かとつながっている。

家に帰れば、愛する家族が待つ。マウンドに立てば、頼もしい先輩、後輩が支えてくれる。スタンドにはどんな時も励ましてくれるファンがいる。「幸せなマウンド」を守りきり、チームの優勝マジック「5」をみんなの力で減らした。【栗田尚樹】