「元気男」のメモリアル弾で、大逆転物語を加速させる。楽天田中貴也捕手(28)がプロ初本塁打をマークし、プロ2度目のスタメンマスクに応えた。3点リードの7回に右翼席へ2ラン。巨人時代に教わった阿部2軍監督からの助言も生かし、貴重な追加点を挙げた。チームは連敗を2でストップ。30日から2・5ゲーム差と迫った2位ロッテと直接対決3連戦。逆転CS進出へ4位からはい上がる。

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魂の叫びを白球に乗せた。3点リードの7回2死三塁。田中貴が「おりゃー!」とほえた。西武国場の初球、内角カットボール。「何とか1点ほしかったので初球から打ちにいこうと思いました」。フルスイングで完璧に捉え、右翼席中段へプロ1号2ラン。「次のイニングどうやって守るかしか考えてなかったです」と余韻には浸れず、表情を変えずにダイヤモンドを回った。

「今」をかみしめる。「ジャイアンツ時代には味わえなかったことを味わわせていただいている。緊迫した状況、場面で試合に出られていることはすごく幸せに思います」。14年育成ドラフト3位で巨人へ入団。在籍5年半で出場は通算2試合。毎オフ、予想陣容が報道されても捕手の欄に名前が載ることは少なかった。「悔しいね。今に見ておけよ…」。真っ黒に焼けた顔。「よっしゃー!」と誰よりも声を張りながら、汗にまみれた。

転機をチャンスに変えた。9月28日に楽天へ金銭トレードで移籍。報告の電話口で巨人阿部2軍監督から「急でいろいろ大変だと思うけど、本当にチャンスだと思うから頑張れ」と背中を押された。10月24日にスタメンで初出場するとプロ初安打を含む2安打1打点。5日後。所沢でプロ初の猛打賞に3打点。阿部2軍監督から「ポイントを前にすれば強い打球が打てる」との助言も生かし、躍動した。

守備では6投手をリード。三木監督も「トレードできて難しさもあるけど、経験したことを生かして落ち着いてプレーしてくれている」と評価する。2位ロッテとは2・5ゲーム差。30日からの直接対決3連戦を3連勝すれば、まくり返せる。「先輩方も監督、コーチも気さくに話しかけてくれるのでやりやすいです。自分1人の力じゃ絶対にここまで来られなかった。少しでも恩返しできたかなと思いますし、これからももっともっと恩返しをしていきたいです」。鷲の背番号55が、大逆転劇への起爆剤となる。【桑原幹久】