4球団競合の末に、ドラフト1位で近大・佐藤輝明内野手(21)が阪神に入団した。日刊スポーツでは誕生から、プロ入りまでの歩みを「佐藤輝ける成長の軌跡」と題し、10回連載でお届けします。【取材・構成=奥田隼人】

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阪神ドラフト1位の近大・佐藤輝明内野手(21)は、仁川学院2年時にターニングポイントを迎えた。

高校入学時は170センチ、65キロ。細身の体形で、周囲から「マッチ棒」と呼ばれることもあった。1年時から大飛球を飛ばしていたが、ひと伸び足りない打球も多かった。2年の春。肉体改造に着手した。まずは部屋の「リフォーム」から始めた。父博信(53)が、息子と一緒に使おうとベンチプレスマシンを購入。置き場所は輝明の部屋だったが、予想以上にスペースを取った。

父博信 どうせ勉強せんやろ?

輝明 せんわ

母晶子 勉強どうすんの!?

ミニ家族会議を経て、置いてあった勉強机はクローゼットに押し込まれた。そしてベッドと並列して、部屋のど真ん中にマシンが置かれた。勉強場所はリビングで落ち着いた。ただ、ベンチプレスを上げるには正しいやり方など知識が必要だった。素人同然の輝明では、効果的なトレーニングの成果は得られなかった。

マシン購入から半年後の10月。声が掛かった。佐藤家の近所でうどん店「はづき」を営む高取君己(なおき、49)と息子真祥(まさき)が、輝明をジムに誘った。真祥と輝明は同じ野球部の同級生で、近所同士ということもあり仲が良かった。高取親子が通っていた兵庫・西宮市武庫川町にある小さなジムを体験で訪れた輝明は、トレーニングに励むマッチョたちに刺激を受けた。「オレ、やります」。当時182センチ、80キロまで成長しており、さらに体重100キロを目標にジム通いがスタートした。

ペースは月、水、金曜の週3日。高校は午後8時完全下校で、部活動の練習から帰宅すると軽食をとってジムに向かった。行き来は主にうどん店の営業を終えた君己が、息子と輝明を車に乗せて片道約20分の道のりを運んだ。トレーニングは午後9時ごろから約2時間。君己がジムの関係者と知り合いだったこともあり、熱が入った時は日をまたぐまで汗を流したこともあった。ジム終わりにはラーメンを3人で食べに行った。ジムに行かない日は、学んだトレーニング法を自室で取り組んだ。重さ最大145キロに設定できるマシンなどを上げて体を鍛えた。

努力は実を結ぶ。高校2年の終わりには体重が97キロまで到達。3月の対外試合解禁後は豪快なホームランを連発した。本人も「打球が変わった」と成果を実感。目に見えて効果が出たことで自信がつき、プロ入りという目標を明確に持つようになった。(敬称略、つづく)