コロナ禍の特別なシーズンで、ソフトバンクは3年ぶりのリーグ優勝、4年連続日本一を果たした。無観客でのスタート、最後も通常の半分ほどしか観客を入れることができなかった本拠地ペイペイドームも、例年とは違う対応を迫られた。ソフトバンクを支える人々にスポットを当てる、随時企画「支えタカとよ」。今回はドームでファンを盛り上げるために、陰から支えた3人を3回連載で取り上げる。

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日本一の歓喜の胴上げはなかった。ソフトバンクナインと工藤監督、孫球団オーナー、王球団会長らは、マウンドを中心に大きな輪をつくった。「日本一おめでと~う! バンザーイ! バンザーイ! バンザーイ!」。ペイペイドームに大きな声で万歳三唱の音頭を取ったのが、代役スタジアムDJのトッシー兄さん(44)だった。「日本一になって本当によかった。僕に代わって負けたなんてことにならなくて良かった」と、ホッとした表情で語った。本来は体操のお兄さんのようななキャラクターとしてファンを盛り上げているトッシーが、シーズン途中から突然、スタジアムDJも任された。

98試合目の10月11日ロッテ戦のことだった。今季で7年目のスタジアムDJツバサが腹膜炎のため治療に専念することに。ドーム到着後、いきなり代役を打診されたトッシーは「試合で急に経験のない捕手をやれというような感じ」と戸惑ったが、「シーズン終盤で、今からいきなり縁もゆかりもない人が代役しても、お客さんも選手のみなさんも誰? ってなると思って、そこでチームの士気、成績が下がってくるよりは、聞き慣れた声の方がいいだろう」と覚悟を決めた。ツバサからは「本当に申し訳ない」とメールが届いた。

スタジアムDJの経験がないトッシーに、試合中の選手コールは難しいと、ウグイス嬢がビジター選手だけでなくソフトバンクの選手もコールすることとなった。トッシーは試合前のホークス選手のスタメン発表、イニング間のお知らせなどを担当した。

「ツバサと一緒に7年間やっているので、それを参考にしました。昨年、1度経験していたのも大きかった」。昨年、日本シリーズのパブリックビューイング時にツバサがどうしても日程がつかず代役を務めた経験が生きた。

トッシーは14年から試合前にマスコットのハリー・ホークや公式チアリーダー・ハニーズのメンバーとともにダンスを踊る。だが、球団からもらった最初のオファーはスタジアムDJだった。「私が司会をしている結婚式に球団の担当者が出席されていたのがきっかけです」。現在も司会業を続けており、アナウンス力には問題がなかった。

「自分の言葉でその日の試合をまとめないといけないのが一番大変」。勝利の場合は勝った瞬間から、工藤監督やナインが1列に整列するまで約30秒の場をつながぐ必要がある。これまではスタンドでファンと触れ合っていた試合中は、本塁後方の放送ブースからゲームを凝視し、頭の中で言葉をつないでいた。

代役DJとなった後、通路で甲斐とすれ違った時に甲斐から「ツバサさんは?」と聞かれ、療養中で、自分が代役をしていると伝えると「大丈夫ですよ。勝っているんで」と笑って励まされたという。チームが好調だったこともあり、担当した11試合は10勝1敗、ポストシーズンは4戦4勝と驚異的な勝率を残した。

開幕時は無観客のため盛り上げ役のトッシーに出番がなかった。そこからの二刀流の大活躍だった。ツバサも現在は回復に向かっている。トッシーは「来季はまたツバサと一緒にやりたいですね。僕は本来のところで」と願う。ツバサのうるさいくらいに響く太い声、トッシーのキレキレのダンスで、再び2021年のペイペイドームを盛り上げる。【石橋隆雄】