東京ドームの名物書店が56年の歴史に幕を下ろした。オークスブックセンター東京ドームシティ店が11日午後8時をもって閉店。10日にそのニュースが報じられるとツイッターで一時トレンド入りするなど大きな反響を呼んだ。老若男女、さまざまなファンに愛された名物店の最後の瞬間に密着した。

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最後のお客さまを接客し、笑顔で見送った田上嘉志店長(42)は、閉店を知らせるカーテンをゆっくりと降ろした。「終わってしまったんだなと。寂しい。こういう店をまた作っていかないといけないのかなと思っているところもある。条件が重なって巡り合う機会があれば」と別店舗で“名物書店”再現への思いをこぼした。

最後に店を一目見ようと多くのファンが訪れ、別れを惜しんだ。巨人ファンだという女子大生の田口琳珠(りんじゅ)さん(20)は、通っている日大のキャンパスがJR水道橋駅から徒歩4分ほどの距離。しかしわざわざ徒歩15分かかる後楽園駅の定期を購入している。大好きな東京ドーム周辺を歩く毎日。それが楽しかった。本好きで野球好きの田口さんにとってこの店は通学路の中でもひときわ大きい存在だった。「小学生の時から来てました。ここに来ればなんでもあるという安心感がありました。試合を見る時もここで友達と巨人のカードを買ってから東京ドームに行くのが楽しみでした。閉店するなら定期も水道橋駅に変えようかな」とさみしがった。

川崎市からこの店だけのために訪れた格闘技ファンの富樫孝史さん(45)は「昨日記事で知って、閉店までに絶対来ようと思ってました。後楽園ホールに行くときは必ず来てました。マニアにとってはありがたいお店だったので非常に寂しい。これからどこに行けば…」と困惑していた。

都内在住の日本ハムファン今井大輔さん(43)は、日本ハムが東京ドームを本拠地とする92年から30年近く通い詰めた。「ファイターズ検定」など3冊を購入し「学生時代から来てましたから。あるのが当たり前だった。ここは買う予定のない本もついつい買ってしまう店だった。おかげで競馬好きになりましたよ」と笑った。

最後の客となった近所の60代の夫婦は閉店時間を過ぎた午後8時5分ごろ、閉まりかけた入り口から声をかけて慌てて入店した。「なんとか来ようと思って。20年近く来てました。見識がある、いい書店でした。普通の店じゃないのでなくなるのが寂しい」としみじみ語った。

今後、他の書店が引き継ぐ予定はない。在庫は全て返品し、まっさらな状態にする。店の象徴だった「文系野球の聖地」の看板は廃棄予定だ。多くのファンが愛した名物書店が惜しまれつつ、姿を消した。【小早川宗一郎】