楽天牧田和久は「絶滅危惧種」の保護に熱心だ。高校野球中継を見ていても、ついつい下手投げを気にしてしまう。「この子は体が傾くからボールが垂れてしまうなとか、考えちゃいますね」と照れ笑いする。

虎の変則右腕、青柳晃洋が練習試合DeNA戦に先発した18日。その道のトップランナーに話を聞きたくなって、阪神1軍キャンプ地の宜野座村から南に10分ほど車を走らせた。

金武町の楽天1軍キャンプ地をのぞくと、36歳は風速7メートルの冷風をものともせずブルペン投球を続けていた。岸孝之、涌井秀章といった一流どころと並んでも、おなじみのフォームが目を引く。さすが「サブマリンを守る会」の会長だ。

1月、牧田はソフトバンク高橋礼、西武与座海人の後輩2人と「下手投げ合同トレ」を初開催した。代名詞の超スローカーブを後輩に伝授する一方で、高橋礼の武器シンカーにも挑戦。実り多き10日間に手応えを得たのか、会長は虎の背番号50にも今後の共闘を呼びかけたという。その本心を今回、教えてもらった。

牧田いわく、青柳は「アンダー気味だけどアンダースローではないかな」。本人もサイドとアンダーの中間という意味で「クオータースロー」と称しており、下手投げとは表現しづらい。なので「会員資格」はグレーゾーン。その上、面識もない。それでも変則右腕の先輩は「お互いヒントを得られるのでは」とメリットを強調する。

「人数が少ないからアンダースローでひとくくりにされがちだけど、球筋にしてもみんな違う。与座くんの場合は真っすぐがカット気味。高橋くんはシュート気味だけどボールは強い。高橋くんは少し硬さがあるけど、与座くんはしなやかだったり…。青柳くんもまた僕らとは違うと思う。お互いにいくらでもヒントが見つかると思うし、悩んでいることがあれば『こんな考え方がある』と教え合うこともできるので」

牧田は18年1月、西武からパドレスに移籍。米国1年目にメジャーで27試合に登板した後、3A、2Aで長いマイナー生活も経験した。多国籍な仲間の多種多様な人生観、野球観、投球フォームに触れる中で「相手の意見を尊重する、学ぶ」マインドを重視するようになったそうだ。

「サブマリンを守る会」のポリシーは「押しつけない」。プレートにかける足の位置は? 左打者内角の突き方は? 技術、メンタルの意見交換を続け、おのおのが引き出しを増やしていくスタイルらしい。

「人それぞれの考え方に正解、不正解なんて絶対ないと思うので」

球速90キロ台のカーブに高速クイックに…。オリジナルな武器を作り上げた男の言葉には説得力がある。

今も昔も、下手投げは圧倒的にマイノリティー。変則投手同士でしか分かり合えない、解決できない悩みもあるに違いない。それがたとえライバルチームの選手でも、仲間意識は自然と芽生えるものなのだろう。

今季、先発ローテ主戦格への成長を計算される青柳。その飛躍を願う野球人は、チームメートだけではないようだ。【佐井陽介】