いい子ちゃんじゃなく、自分らしく-。阪神藤浪晋太郎投手(26)が日刊スポーツの独占インタビューで完全復活に懸ける本音を語った。笑顔の訳、人生観の変化、新フォーム誕生までの裏側を包み隠すことなく激白。どん底を経験した男は今、「ピッチングしていて楽しい」と言う。【取材・構成=佐井陽介】

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もちろん、笑顔には理由がある。藤浪いわく、昨季中継ぎ登板後に見られた明るい表情は「ホッとしての」笑顔。今春キャンプのそれはまた質が違うという。

「去年は余裕のある感じではなかった。今も別に笑おうとはしていませんよ。楽しくやろうというわけでもない。いい感じだから自然とそういう表情が増えているのかなと思います。充実しているのは間違いない。自信とまではいかないですけど、全部が全部そうではないけど、ある程度いい方向に行っているという感覚はある。その辺りの余裕がありますし、ピッチングをしていて楽しい。投球中もある程度、いろいろ遊びを入れる余裕がありますね」

昨年8月に692日ぶり白星をあげた直後には「人の痛みが分かるようになりました。人間として1つ成長できた、大きくなれたのかな」と照れ笑いしていた。ここ1、2年の心の変化は本人も自覚している。

「余裕だったり、ゆとりがありますね。今までは何か言われたり、自分の意図とは違う報道が出ていると、『なんやねん』と思ってしまっていた。今はそういうことも受け流せるようになりました。良くない時でも書いてもらえる存在なんだと、あえて思えるぐらいにして。無理にそう思おうとするのではなく、自然にそう思えるようになってきたんです。いろんなモノにイライラしたり、そういうことは本当になくなってきました。受け流せるようになってきました。あとは心境の変化で言えば…『ファンのために』とよく考えるようになりましたね」

ここ数年は制球難に苦しみ続けた。「イップス」という言葉を背負わされた時期もあった。

「そういう状況でも応援してくれる人がたくさんいたので余計に、ですね。『ファンのために』というのも、ただ単に手を振るだけじゃなくて、本当にプロフェッショナルとして、という意味です。プロと社会人野球を比べれば、どちらも野球がうまいことに変わりはない。じゃあ何が違うんだというと、『魅せる』ことなんだと思う。『魅せる』プレー、投球ができるかどうか。それがプロフェッショナルだと思うんです。そういうプレーを見せたい。『藤浪が投げる日だから見に行きたい』と言ってもらえるようになりたいと、最近思えるようになりました。良くない時期も長かったので…。そんな時にいろいろ考えたり経験したことが、自分をそういう風に思わせているのかなと思います」

どこまでも自然体。26歳にして酸いも甘いもかみ分けた背番号19を応援する声は今や、阪神ファンの枠を超えて全国各地の野球ファンからも届いている。「境遇も含めて、でしょうね。良かったヤツが1度落ちてはい上がってくる話はみんな好きだと思うので(笑い)」。そう冗談めかすのは照れ隠しだろう。支えてくれたファンのために。藤浪は親交のある競馬界のレジェンドのような存在を目指す覚悟でいる。

「人間的には…表現が難しいですけど…いろんな人に応援してもらえる人になりたいですね。いい子ちゃんじゃなくて。飾らずに。いろんな人に魅力的に映るような人物になりたいです。以前から武豊さんはずっとそういう話をしてくれている。見てもらうことをもっと意識しなさい、見る側の人を意識しなさい、と。自分も、ああいう人になりたいという憧れがあります。ああいう人物になりたいと思っています」

◆藤浪の現状 今春キャンプは再挑戦中のワインドアップ投法で好投連発。ここまで実戦3試合で計8回を1失点。すでに2月の段階で最速158キロを計測し、高速フォークも147キロをたたき出している。直球、変化球ともに制球は安定しており、3年ぶりの開幕ローテ入りへ前進中だ。キャンプ中は週末の登板を続けており、次回は5日からのソフトバンク3連戦中に登板する可能性が高い。現状、ヤクルトとの開幕カードへの投入が予想される。

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