<日本ハム7-3中日>◇1日◇札幌ドーム

二刀流ルーキーが、歴史的な白星を手にした。日本ハム大谷翔平投手(18)が2度目の先発マウンドに上がり、5回4安打3失点でプロ初勝利を挙げた。2、3、4回と毎回失点する苦しい展開だったが、最速156キロの直球と89キロのカーブなど、緩急差を駆使して味方の援護を守った。規定打席に到達していないとはいえ、打率3割4分8厘の成績を残している打者が、投手としてつかんだ白星。二刀流挑戦は、次なるステップに入った。

歴史の扉を開いた異次元ルーキーの腰は、どこまでも低かった。大谷はウイニングボールでふくらんだおしりのポケットをさすりながら、何度も頭を下げた。

大谷 今日は援護をもらって、何とか勝たせてもらった。先輩に助けられました。感謝したいです。自分の投球には納得いっていない。次は(自分が)勝たせられるようにしたいです。

規定に到達していないとはいえ打率3割を超える好打者が、5回4安打3失点でプロ初勝利。球界に名を刻む大きな1勝だが、晴れやかな笑顔はない。もっとやれる自信があるから、胸を張れなかった。

反省は2回以降にある。ルナに左前打を浴びて走者を背負うと、投球フォームのバランスを崩した。山崎にはプロ入り初となる死球を与え、1死満塁。藤井に先制の犠飛を許した。「2回にも初回のような投球ができれば…」。3、4回にも立て続けに失点。苦難の5回87球だった。

だが状態が悪くても、前回登板(5月23日ヤクルト戦)で手にできなかった白星に価値がある。花巻東時代から、目指してきたのは「勝てる投手」。最速156キロと89キロカーブの緩急差は67キロ。打者との間合いに変化をつけながら、リードを守りきった。「改善点はいっぱいあります。でも1勝したことで、気持ちに余裕は出るかなと思います。負けるよりは勝った方がいいし、次のマウンドに生かせるようにしたいです」。笑顔はなくても、手応えは確実に得ていた。

何度も「感謝」と口にしたが、誰よりも伝えたいのはコンビを組んだ鶴岡だ。リード面だけではなく、2回には逆転2ランで援護点。サインミスで投じたスライダーを、抜群の反応で受け止めてくれた場面もあった。

プロ初登板だった前回、初回のピンチを鶴岡の好ブロックで切り抜けると、大谷はベンチで「ツルさん、ナイスです!」と、ハイタッチを求めた。日本ハムのベンチでは、登板中の投手は向かって右奥に座るのが通例。首脳陣や捕手が座る反対側を投手が訪れることは皆無で、栗山監督はじめ周囲も仰天した。

鶴岡は「高校野球を思い出した」と爆笑。「いいからあっちで休んでおけって」。一同は声をそろえ、大谷をほほえましく見つめた。中田は「とにかくかわいい。素直だし、周りから憎まれない性格」と言う。18歳ルーキーのひたむきさは、先輩の胸を打つ。チームメートの援護は、何も偶然の出来事ではない。

初勝利を挙げ、二刀流挑戦はまた1歩進んだ。「野手で出ているときも、投手の調整をしっかりできるように、自分で工夫していきたい。(セの本拠地では)塁に出て息が上がっているときのマウンドでも、しっかりできるように」。大いなる挑戦は始まったばかり。歴史的な1勝がかすんでしまうほど、これからの活躍はまぶしいものになるはずだ。【本間翼】

 

☆大谷一問一答

──初めてのお立ち台

大谷 すごくうれしいです。多くの先輩の援護に助けられました。声援に応えられたかはわからないけど、チームが勝ったのでよかった。

──ウイニングボールは

大谷 両親にあげたいと思います。

──4回終了時に、栗山監督と直接話をしていたが

大谷 「5回を投げきるとか考えるんじゃなく、自分の納得いくボールを投げてほしい」と言われました。クリーンアップだったので、気持ちを切り替えていきました。

──5回は直球で押した

大谷 流れ的にラスト(のイニング)だろうと思ったので、できるところまでいこうと。今日は今日なりにできることはできた。走者をためても守ってくれた。先輩に感謝したいです。

──プロでやっていく自信は

大谷 今日も精いっぱいで5回を投げきった感じなので…。改善点はいっぱいあります。でも1勝したことで、気持ちに余裕は出るかなと思います。負けるよりは勝った方がいいし、反省点も出た。次のマウンドに生かせるようにしたいです。