5日の広島-巨人戦は、センターの守備に明暗が出た。

巨人1点リードの7回2死一塁、広島の中堅手羽月隆太郎が飛球を見失った。春の西日と白球が溶け合って、視界から消えた。自分の前にボールが落ちる適時打となり、痛い追加点を献上した。

その裏、巨人の中堅手丸佳浩は、自分の前に飛んできた飛球を地面すれすれで2度も好捕。「今日はもう太陽が入っていたので。一歩間違えてたら自分もやっていた」と振り返った。

マツダスタジアム、快晴、デーゲームの終盤。外野手にとって難しい条件がそろった中で、同球場での経験値が球際の攻防に出た。「鬼門マツダ」のトリビアをコラムで振り返る。

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マツダスタジアムの本塁は「西南西」に位置している。屋外を本拠地とするプロ野球の球場ではオンリーワンだ。

公認野球規則の一節に、1956年(昭31)に改訂された「本塁から投手板を経て二塁に向かう線は、東北東に向かっていることを理想とする」がある。この球場は忠実にできている。

オンリーワンは個性になる。長く巨人でプレーし、日本ハムで最もこの球場に明るい矢野謙次が「赤のファンは気にならないけど、昼が難しい。外野はまぶしい。夕方はコンコースから西日が入り、マウンドと本塁の中間に、影ができる。突然ボールが来るんです」と言う。日刊スポーツ評論家の宮本慎也氏も「とにかく外野は守りにくそうだったなぁ」。太陽の軌道を考えれば、西南西の本塁は、特に外野を守る選手にとって厳しい。

建設に携わった球団職員に聞くと「本塁…方角に深い議論はなかったですけど」との反応。「最優先は地形。左翼の後ろに鉄道が通っている。あとは、できるだけみんなに楽しんでもらうこと。座席と線路の間に『ただ見席』も作った」と説明してくれた。

レールは動かせない。ならば、新幹線の車窓からでも、隙間からでも見てほしい。最も視線の集まる先にホームベースを配すと西南西に…ファン・ファーストがもたらした産物だった。

マツダスタジアムは、外野の向こうにサンフランシスコ湾が控えるAT&Tパーク(現オラクルパーク)を参考に建てた。本塁の向きは、これも偶然だが、ほぼ一致している。ちなみにメジャー全30球団で、本塁が東北東に位置する球場はゼロ。非対称と西南西の本塁が、ボールパークの空気を醸造する。このオンリーワンは偶然じゃない。(日刊スポーツ2016年10月23日付紙面より。敬称略、一部加筆、修正)【宮下敬至】