球界を代表する2人のホームランアーチストが「打の極意」を伝授した。西武中村剛也内野手(38)と巨人岡本和真内野手(25)が5年連続となる合同自主トレを行った。今回、新たに参加した西武渡部健人内野手(23)へ、直球に力負けしないポイントを指導。1年目の今季、イースタン・リーグで19本塁打、64打点で打撃2冠を獲得した「よくばり君」の才能開花を後押しした。【取材・構成=上田悠太、小早川宗一郎】

ぜいたくで、濃密で、高次元の授業が始まった。2人のスラッガーは穏やかなまなざしで見つめていた。視線の先では、1軍の壁に苦しんだ渡部がバットを振る。控えめな声で相談された。

「真っすぐに差し込まれて、捉えたと思っても、バックネットへのファウルになるんです」

渡部の1軍成績は16打数1安打。アマ、2軍とはものが違う直球に対応しきれなかった。唯一の安打の本塁打も捉えたのはカーブ。

2年連続2冠王は記憶を呼び起こし、まず経験値を伝えた。

岡本和 自分は元々、右膝が折れるのが早かった。我慢できてから変わった。

右膝が折れれば、右肩も下がる。軸足に力もたまりにくい。岡本和は2、3年目は0本塁打。それが4年目は33発。きっかけをつかめば、覚醒を秘めると知る。右膝を我慢する意識は飛躍の裏にあった1つの要因だ。もともと渡部は気になる存在で「動画とか見てた」とも告げた。少年のような笑顔にさせ、直球狙い時のイメージも言語化した。

岡本和 目で前で捕まえる。

軌道を早く捕まえる意識。もちろん、まずスピードへの慣れが必要だ。振り遅れないように、と始動で力めば、逆にインパクトで力は抜ける。ゆったり柔らかく振り出して加速させるよう、球を捉える瞬間にパワーの最大値を伝えていく。

現役最多通算442本塁打のスラッガーは、巨漢の系譜を受け継ぐ後輩の模索を感じ取っていた。

中村 俺の打ち方になってる。「これ」も始めた。

「これ」とはヒッチ(バットのグリップを上下させる予備動作)。すぐにその改善点を見抜いた。

中村 下げる時、こっち(自分の背中方向)に入ってる。

体がねじれすぎてスイングすると、インパクトゾーンとの距離が生まれる。それを取り戻そうと、右肩が早く出て上半身が突っ込んでしまう。その傾向が渡部は強く、ドアスイングに陥っていた。解決方法は捕手方向へ置くように下げるイメージ。バットは遠回りせずにスムーズに出るようになる。

先輩2人から身ぶり手ぶりの助言を受け、渡部は再び、スタンドティーの球を打った。快音を残した打球は、青空を滞空時間長く、センター深くまで伸びた。

中村 おお。そうそうそんな感じ。バリ飛ぶやん。

思わずうなった。豪華2人による極意の伝承。その2時間には、覚醒の種が凝縮されていた。

◆渡部健人(わたなべ・けんと)1998年(平10)12月26日、神奈川県生まれ。横浜商大高から1年冬に日本ウェルネスに転校。桐蔭横浜大では1年春から4番。4年秋には8本塁打を放ち、神奈川大学野球リーグ新の23打点。20年ドラフト1位で西武入団。今季は4月4日ソフトバンク戦でプロ初出場。2軍で19本塁打、64打点で2冠。176センチ、112キロ。右投げ右打ち。今季推定年俸1600万円。