全国舞台が遠のいている奈良学園大が「変革」で生まれ変わろうとしている。近畿学生リーグで昨秋5位。常連だった全国大学野球選手権も18年の出場が最後だ。この冬、球速や弾道を測定するラプソード、体成分分析のインボディ、投球時の肘への負担や角度を計測するパルススローのハイテク機器を立て続けに導入した。昭和の精神野球から脱却し、自主性重視の令和新時代野球へ。酒井真二監督(44)らに思いを聞いた。【取材・構成=酒井俊作】

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気合と根性だけの野球は時代遅れだ。全国への道が険しくなり、奈良学園大の酒井監督は危機感をにじませる。「ウチを倒すために国公立大もいろいろ考えている。私たちが変われてない」。近畿学生野球で44回優勝。09年秋から16年秋に15連覇の強豪は近年、苦戦する。昨春は和歌山大、秋は神戸大が頂点に立った。

主将の高田光基捕手(3年=明秀学園日立)も「強かった頃の奈良学園大を取り戻すのが一番。日本一をとりたい」と言い切った。21年最後のミーティングでは仲間に「歴史を変える1年にしよう」と伝えた。この冬は過去にない変革を迎える。インボディ、パルススロー、ラプソード。先進的な機器を続々導入した。いずれも体の状態や動きを細かく数値化し、現状を客観的にとらえられる。酒井監督は意図を明かす。

「いまは納得することには一生懸命取り組む時代。昔ながらの野球にプラスアルファの根拠をつけたい」

ハイテク機器が進むべき道を照らす。最速146キロのエース植木佑斗投手(2年=履正社)はラプソードで新たな自分を発見した。「スライダーは早めに曲がるし、打者が判断しやすいと思っていた。でも、ピッチトンネルでだいぶ打者の近くで曲がって、打者が判断しにくいと分かりました」。打者が球種やコースを見極める限界といわれる、本塁から約7・2メートル地点での直球と変化球の軌道の差を直径に見立てた「穴」がピッチトンネルとされる。

「自分は、スライダーもカットボールも、意外と打者の近くまで直球と同じ軌道なので見分けがしにくいんだと。いままで以上に自信を持って投げられます」

パルススローでは肘の角度も確認する。球数が増えて疲れてくれば角度も下がる。「自分の特徴を知るために絶対必要。プラスしかない」と植木は強調した。

「阪神の佐藤さんは100点を超えると聞いて…」

そう感心するのは虎のスラッガーと同じ、左の長距離砲で4番の三好辰弥外野手(2年=大商大堺)だ。昨年10月、インボディで体の筋肉量や体脂肪を測定した。91点の高得点が示すように、188センチ91キロの肉体に恵まれる。だが、弱点が見つかった。「上半身が下半身に比べて筋肉が少ないと分かりました」。体幹や両腕両足の5部位で細かく体成分を分析。「劣っているところも分かります」。強化ポイントが明確になれば、効率よく鍛えられる。

天理(奈良)出身で13年に就任した酒井監督は、19年から選手に練習メニュー作成を任せている。「私が作っていたときよりも練習量が多い。もう学生に任せる時代。このやり方が必ず勝ちに結びつくと思っています」。ラプソードで現状を知った多くの野手は、重いマスコットバットを振り込むようになった。変わらなければ淘汰(とうた)されるのが、自然の摂理だ。生駒山系の麓のグラウンドで新時代の息吹に触れた。

○…奈良学園大はアナリスト専門部員の入部も模索する。酒井監督は「今後はアナリストのような部分も強化したい。専属で入学してきてくれる選手がほしい」と話した。納入を手掛けるSSK社のサポートでインボディやラプソードを導入した。まだ関西の大学球界でこれらの機器は一般的に普及していないという。高田は「数値にこだわりすぎるとフォームが崩れる」と言う。試行錯誤しながら、パルススローも加えた「3種の神器」を使いこなす。

◆奈良学園大 野球部は1984年(昭59)に創部され、近畿学生野球連盟に所属する。前身の奈良産大時代から全国大会の常連で全国大学野球選手権には通算21度出場し、最高成績は16年のベスト4。おもなOBは元阪神湯舟敏郎、元中日山井大介、元阪神桑原謙太朗、ヤクルト宮本丈ら。専用野球場は奈良県生駒郡三郷町。