中日大野雄大投手(33)が大記録を逃した。阪神戦(バンテリンドーム)の延長10回2死までひとりの走者も許さない完全投球を続けたが、この日115球目を佐藤輝に中越えへ運ばれ、二塁打を許した。ロッテ佐々木朗に続く今季2人目の完全試合は逃したが、チームはサヨナラ勝ち。19年のノーヒットノーランに続く快挙はならなかったが、10回1安打完封で今季2勝目を手にした。

10回2死二塁。直前に佐藤輝に二塁打を浴び、大記録を逃しても、大野雄は渾身(こんしん)の直球を投げ込んだ。この日31人目の大山を二飛に打ち取り、左腕でガッツポーズ。その裏、サヨナラ打を放った石川昂を、アイシングをしたまま出迎えた。

ゲーム開始から無双だった。最速147キロの直球に、変化球がさえた。1人の走者も許さず9回終了。一方で相手の青柳も好投。8回2死一、三塁の好機には、大野雄自らが中飛に倒れ、投手戦が続いていた。「行かせてください」。9回を終え、ベンチで立浪監督に訴えた。

首脳陣は10回から守護神R・マルティネスをスタンバイ。指揮官も直接、降板を伝えた。1度は受け入れたが、考えを変えた。「柳の顔が浮かんで、アイツなら絶対行くっていうやろな」。完全試合のためではなく、チームの勝利のため、延長10回のマウンドに上がった。

「ずっと無安打には気づいていた。(意識したのは)8回ですかね」。4月10日にロッテ佐々木朗が完全試合を達成したばかり。大記録が幻になっても「(完全試合で)延長10回をいける投手もなかなかいない。自分をほめてあげたい」。05年の西武西口(現2軍監督)以来、史上2人目の延長10回“完全逃し”の完封勝利に胸を張った。

自宅の記念品を飾る棚には短冊が1枚掲げられている。昨年11月に生まれた長男の誕生祝いを立浪監督から受け取った。自宅に戻って祝儀袋の短冊を見ると、2枚仕込まれていた。1枚目には「誕生祝い」。その下には「開幕を任せた」とあった。4度目の開幕投手を粋な計らいで伝えてくれた指揮官の直筆メッセージ。「うれしかった」と振り返る。チームの連敗は止まり、貯金「1」に戻った。エースが、竜を上昇気流に乗せるのはこれからだ。【伊東大介】