阪神3年目右腕の西純矢投手(20)が、二刀流の大活躍で最短19日にも自力Vが消滅した危機を救った。打っては8番起用の期待に応え、高橋の150キロを完璧にとらえた中押しのプロ1号2ラン。投げては1失点のプロ初完投で2勝目と、エンゼルス大谷もびっくりの大車輪だ。残りジャスト100試合。ロッテ佐々木朗世代の若き剛腕が、最下位から逆襲を期す矢野阪神の反攻シンボルになる。

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8番に打順を“昇格”させた西純は、ファーストスイングで強打者の「実力」を証明した。1点リードの2回2死一塁、その初球だ。左腕高橋の真ん中150キロ直球を完璧にとらえた。バットを左翼方向に向けながらゆっくり歩き出し、確信した瞬間、アーチストのように後方に投げた。度肝を抜くプロ1号2ランだ。

「狙っていたボールが来たので、思いきり振り抜きました。打った瞬間『いったわ』と思って、すごくうれしかった。打った自分が一番びっくりしました」

捕手の坂本を9番にするほど持ち前の打撃力を買われ、球団では07年5月5日のボーグルソン以来、15年ぶりに投手で8番に抜てきされた。創志学園(岡山)時代は2年時から中軸を任され、3年時はエースで4番。高校通算25発で長打力は折り紙付きだ。高校侍ジャパンの19年W杯では、4番石川昂(現中日)に続く5番を任された試合もあった。南アフリカ戦では1試合2発8打点の大暴れ。2発で大会キングにも輝いた。この日の1発で今季先発した全3試合でヒットを記録。強打者「西純矢」の実力を存分に発揮した。

1発長打の“DNA”が流れる。広陵(広島)に在籍中の弟・凌矢(3年)が4月30日、春の広島県大会の準決勝、呉戦で3本塁打。関係者からその動画が1本ずつLINEに送られてきた。同じ背番号15の弟の暴れっぷりに「よっぽど調子がいいんですね」と感心。負けじと翌日、今季初登板した1日の巨人戦で7回1失点の快投でプロ2勝目をマークした。この日のプロ1号も、自分とは正反対のおとなしい性格の弟の猛打が、効果抜群の刺激剤になったに違いない。

本職の投手でも昨季王者のヤクルトを圧倒した。雨天中止などで登板間隔がずれ込み、中9日で迎えた一戦。最速150キロ超えの直球とフォーク、スライダーなどを駆使した。6回2死から山田にソロを許したが、失点はその1点だけ。昨季5月19日に5回無安打無失点でプロ初勝利をつかんだ相手を力でねじ伏せ、プロ初完投勝利も手にした。

負ければ19日にも自力Vが消滅した一戦で、大谷もびっくりの投打二刀流の大車輪。投手陣の3失点以下も20試合連続に伸ばした。佐々木朗らと同世代、20歳のヒーローが、まぶしい輝きを放った。【古財稜明】

▼8番で出場した投手の西純矢投手(20)がプロ初アーチ。9番以外の打順で先発した投手が本塁打を打ったのは、18年7月10日に8番で記録したウィーランド(DeNA)以来となり、日本人投手では1番で打った16年7月3日大谷(日本ハム)以来、6年ぶり。阪神では58年の小山と大崎以来で、小山は8番で出場した5月17日大洋戦、大崎は同じく8番で出場の5月25日国鉄戦で本塁打を放っている。

▼投げてはプロ初完投勝利。自ら本塁打を打って完投勝利は20年6月19日大瀬良(広島)以来だが、プロ初本塁打試合でプロ初完投勝利は84年5月11日池田親興(阪神)以来、38年ぶり。新人だった池田はプロ7試合目の登板となった巨人戦の5回に定岡からプロ初アーチを放ち、1失点完投勝利を記録した。

○…梅野が右脇腹の故障で抹消されたピンチで、坂本が西純を好リードした。「どの球種でもカウントが取れるし勝負もできる」と20歳の右腕の持ち味を存分に引き出した。9番での出場はプロ2度目で、1回目は昨年5月28日、DH制のある敵地西武戦だった。投手が打席に入るセ・リーグの試合では初体験。7回の打席で死球を受けてヒヤリとしたが、フル出場で勝利に貢献した。

○…矢野監督も西純の本塁打にビックリだった。「いやぁ、ねえ、あのストレートを一発で仕留めるってすごいよね」。8番投手の起用は井上ヘッドコーチの提案で「ヘッドのファインプレー」とたたえた。本格的な二刀流の挑戦については「そんなんあるわけないやん!」と突っ込んだが、「そういう気持ちを持ちながら、打席でも自分で打って自分で勝つと、自分も助かる。ファンの人も喜んでくれるし、そんないいことない」と笑顔。「明日も8番にピッチャー入れようかな」とガンケルを起用する方針を明かした。

▽阪神井上ヘッドコーチ(8番起用の投手西純がプロ初アーチ)「『そういうのもどうですか』と提案はしました。もともと打撃が好きだし、たまにはそういう流れもいいのかなと思って。元々は野手で入ろうか、投手で入ろうかという選手。センスで打ったような感じがします」

▼阪神の投手が8番に入るのは、07年5月5日広島戦のボーグルソン以来。同年は4月14~16日にも8番投手があるが、4試合とも9番は中堅赤松だった。交流戦を除き、9番で捕手が先発は、64年7月5日の大洋戦(ダブルヘッダー第2試合)で山本哲也が入った例がある。

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