最速164キロのロッテ佐々木朗希投手(20)に代表されるように、令和の日本球界は投手の直球がどんどん速くなっている。その中で平均130キロ台の佐藤奨真投手(24)の素質を見いだしたのは、福沢洋一スカウト(55)だ。この日は神宮球場で全日本大学選手権を視察。帰宅後に初勝利を確認し「ホッとしましたね」と喜んだ。

存在を強く認知するようになったのは、3年前のこと。きっかけは同じように担当した高部瑛斗外野手(24)だった。国士舘大のバットマンとして名をはせ、東都大学リーグ2部の歴代最多安打記録を更新した。福沢スカウトも熱心に追った。「高部が左投手にどんな打撃をするのかなというのを見ていて。そうしたら、この投手、打たれないな~と」。対戦相手が当時、専大3年の佐藤奨だった。

球場に足を運ぶたび、どんどん気になっていく。「打者を打ち取る能力には、いろいろな要素があるんです。球が速いとか、ウイニングショットがあるとか、コンビネーションがいいとか。例えば大事な要素が5個あるとしたら、佐藤は3個は持っていました」。

福沢スカウトは「私は現役時代は捕手だったので」と言う。「バッテリーの仕事は、打者を打ち取ることです。捕手にとって助かる投手、という目線で見ていたら…」。それが佐藤奨だったという。

ピンチでもひょうひょうと投げる左腕は、最初はその熱視線に気がついていなかった。昨夏、日刊スポーツのオンラインインタビューで明かした。「4年春のリーグ戦の時にはまだ、福沢さんが球場にいらしてるのも知らなかったです」。

進路を悩んでいた。社会人野球の世界に進みたい思いはあった。しかし。「進路を考えなきゃな~って、決まらないままずっと来て。そうしたら、コロナ禍になって」。練習も、友人たちの就職活動もストップ状態に。「将来や進路がどうなるのかも、全く想像できなかったです」。自身が福沢スカウトから評価されているのを知ったのは、そんな五里霧中にあった頃。迷いはなかった。

育成指名でも-。伝え聞いた本人の思いにも押され、ドラフト会議を控えたスカウト会議で推した。球が速い、変則投法、足が速い、飛距離がすごい…そんな一芸が重視されやすい育成指名とはいえ、球は速くないけれど奥行きで勝負できる投手。魅力を数値化することが難しい投手。技術や可能性の見極めが問われるスカウトという職において、推薦することに迷いはなかったのか。

「全然なかったです」

福沢スカウトは即答した。「私自身は、佐藤がプロで通用すると思っていました。でも、それ以上に本人の頑張りも大きいですけれどね」。眼力の主は、柔らかな声色で喜んだ。【金子真仁】

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