引退を決めたヤクルト内川聖一内野手(40)と交わした、10年前の会話が思い出される。ナイター前に遠征先のホテルでひと息ついていると、スマホが鳴った。発信元は「内川聖一」。突然のコールに驚きつつ、電話を取った。

「古川さん、楽天担当でしたよね。今度、藤田が行くんで、よろしくお願いします」

DeNA藤田一也内野手の楽天へのトレード移籍が発表されていた。内川は既にソフトバンクの人になっていたが、藤田とは横浜(現DeNA)時代のチームメートで同い年。私は横浜担当を離れて時間がたっていたし、特別、内川と連絡を取り続けていたわけでもない。その程度の関係と言ったら逆に向こうに失礼かも知れないが、そんな記者が今、どの球団を担当しているか思いだし、わざわざ連絡をしてきた。横浜から縁もゆかりもない東北へ行く元同僚を心配し、そこまでやる人間性に触れた気がした。

07年に横浜の担当になった。初めての球団担当で、右も左も分からなかった。当時、内川はレギュラーに定着できずにいた。ベンチを温めることが多く「どうせ僕のことなんか、忘れられてますよ」と愚痴を聞かされたこともあった。駆け出し記者は気の利いたことは言えず「頑張ってよ」としか返せなかった。08年の大ブレーク前夜の一コマだ。22年間、本当にお疲れさまでした。【07、08年横浜担当=古川真弥】