楽天が人生を変えてくれた。兵庫県在住の加藤孝久さん(57)、直子さん(47)夫妻は、東日本大震災をきっかけに楽天ファンとなった。それまで野球自体にあまり興味はなかった。しかし震災直後、嶋が「見せましょう野球の底力を」とスピーチをする姿に胸を打たれた。孝久さんは「これは楽天を応援するしかないなと。大げさじゃなくて、やっぱりあの一言で楽天を応援する気持ちになった」と振り返る。

孝久さんは兵庫県、直子さんは大阪府出身。95年の阪神淡路大震災があったからこそ、同じく震災から立ち上がろうとする東北への思いを強くした。頑張ろう東北。その言葉を胸に、関西で開催される楽天戦に足を運ぶようになった。

試合前には募金活動をする楽天の選手たち。孝久さんは「当時はマー君ぐらいしか知らないわけじゃないですか」と笑ったが、進んで列に並んだ。当時ルーキーだった塩見が持つ募金箱にお金を入れた。「『楽天が募金するのを待っていたんや』と塩見選手に言ったら、すごいうれしそうな顔をしてくれて。それがすごい印象に残ってます」と目を細めた。それからも京セラドームや、ほっともっとフィールド、甲子園-。岡山・倉敷での試合や、秋季キャンプにも足を運んだ。試合を見るときは、外野スタンドで応援ボードを持ちながら、声をからした。

楽天ファンになったことを機に、東北にも行くようになった。球場はもちろん、石巻や名取、陸前高田など、被災地を何度も巡った。「僕ら関西の人間からすると、『もう12年たってるんやから、もう復興できてるやろ』みたいな認識というか、そういうのがある。でも実際に行って、全然復興できていないよなって。これをもっと関西のみんなに知ってもらわないといけない」と願う。神戸とは違う復興のスピード。東北人ではないからこそ、心を痛めた。

13年の楽天の日本一は、自宅のテレビで見届けた。現地で応援したい気持ちはあった。「でも、私たちが行くところじゃないよなって。まずは東北の人にその試合を見てもらいたいと思って、チケット取るのを遠慮しました」と説明した。歓喜に沸く東北から離れた地で、ささやかに祝福した。直子さんも「そこはやっぱりでしゃばったらいけない。次は絶対行きます。遠慮ないよって」と優しげにほほ笑んだ。

震災から12年。楽天ファンになってからも12年となる。たくさんの場所に行き、たくさんの人とふれあい、たくさんのことを学んできた。孝久さんは「東北との縁をつないでくれた。楽天イーグルスを応援することがなければ、仙台をはじめ東北に行くことはおそらく死ぬまでなかったと思います」と思いをはせる。

直子さんは野球のルールが分からないところから始まった。「野球を見に行くようになって、野球好きの多さに驚いた。楽天好きですと言ったら話も広がる。ビジターのときでも広島のおっちゃんに声かけられたり、優しくしてもらったり、『勝って良かったね』って全然知らない人も言ってくれる。野球好きというだけで違う道を歩けているなと思います」と笑顔だった。楽天がつないでくれた縁。大切にしながら、これからも応援し続けていく。【湯本勝大】