日刊スポーツの名物編集委員、寺尾博和が幅広く語るコラム「寺尾で候」を随時お届けします。

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朝日放送(ABC)ラジオ『おはようパーソナリティー』を担当するアナウンサーの小縣裕介が、先週末のウォーキング大会「関西エクストリームウォーク100」に参加し、姫路から大阪までの100キロを完歩した。

激しい筋肉痛に耐えながら25時間58分も歩き抜いた真意を、本人は番組の中で「自分と向き合いたかった」と語った。阪神8連勝の一夜明けで、すこぶる機嫌が良い小縣は、早朝から“六甲おろし”をフルコーラスで熱唱するのだった。

小縣は解説者時代の岡田彰布と一緒に放送してきたから“オカダの考え”に理解が深い1人だ。セ・パ交流戦を迎えて好調をキープする阪神は、梅雨入りで雨予報が続く気候条件と向き合うことになりそうだ。

実際に5月21日、甲子園での広島戦を4対1で終えた岡田は「ちょっとゴロがはねるんよな」と気にしていた。特に屋外球場をフランチャイズにする監督は、雨の強弱、風向き、土、芝、寒暖にまで気を使うものだ。

そこで甲子園の天気で戦況が変わったシーンを思い出した。1999年(平11)5月3日の巨人戦は、開始前から雨降りの予報だった。1回裏無死一塁。巨人ガルベスの1球目に、現ファーム監督の2番和田豊がエンドランを成功させた。

巨人ベンチも初球からの意表を突く作戦はまさかだった。しかも、ガルベスのシンカーをたたきつけた和田の三ゴロが、100%バントと読んで突っ込んだ元木大介の前で異様にはねてレフトに転がったのだ。

阪神サイドには思慮があった。当日の降水確率は正午から18時が90%、24時まで60%。そこで降雨を想定して内野の土は締められていたのだ。拙者の取材メモによると、阪神園芸課長(当時)辻啓之介がつぶやいている。

「もし降ったときに、しばらく雨水が浮いてこないいように土を固めていたんです」

もちろんこのマル秘情報は阪神ベンチの監督野村克也には伝わっていた。だから1番坪井がストレートの四球で出塁するや、すかさず和田にサインを送った。その後、二、三塁から5番ジョンソンの2点打で先制し、3対2で勝利した。

600ミリの望遠レンズからのぞいたカメラマン河南真一も「和田さんは引っ張らない」と一塁側にピントを合わせたが、その予測は外れた。当時の三塁コーチは福本豊だった。してやったりだった和田は“地の利”を認めている。

「土も生きてるんですよ…」

手堅い野球で勝ち続けてきた阪神。パ・リーグとの試合は交流戦に限定されるから、多少は手の内を明かしても後への影響は少ない。だから短期決戦のような戦術が用いられるケースが出てくるだろう。“岡田マジック”の奇策が披露されるとしたら、ここからの交流戦とみている。

 (敬称略)