日本ハム伊藤大海投手(26)が新春インタビューで、プロ4年目にちなみ4つのテーマについて語った。道産子として球団が本拠地を北海道へ移転後初の大役となる「開幕投手」を皮切りに、「エース」と「優勝」、そして「メジャー」への思いを赤裸々に明かした。また24年の干支(えと)「辰」にまつわるエピソードも披露した。【取材・構成=木下大輔】
■「開幕投手」
伊藤は88日後の自分を、どうイメージしているのだろうか-。
伊藤 どっしりしている、自信満々にというか、開幕戦だからといって何か気負いすぎている様子もなく、いつも通りの感じで淡々とゲームを進められたらなって思いますけどね。
昨年11月23日に新庄監督が今季の開幕投手を「伊藤大海君でいきたい」と公表した。プロ4年目で巡ってきた初の大役は「各球団のエースというか、その年を担うイメージ」。日本ハムの開幕投手と言えば、「やっぱ、ダルさんじゃないですか」と07~11年まで5年連続で開幕投手を務めた球団OBのパドレス・ダルビッシュを思い浮かべた。
尊敬する大先輩が何度も経験した開幕戦は3月29日ロッテ戦(ZOZOマリン)。投げ合う相手は小島か種市か佐々木か-。どんな相手でも、球場を支配するのは自分自身でありたい。
伊藤 これまでは相手に引き出されることが多かったので。昨年のオリックス戦だったら(山本)由伸に、一昨年だったら(当時ソフトバンクの)千賀さんに引き出されたり。相手との兼ね合いを見ながら、じゃあ「自分はこうだ」みたいな…先手じゃなかった気がするんですよね。先手、先手で受け身にならないようにしたい。ビジターですけど、自分優位にゲームを進められたらチームも乗ってくると思います。出だしは、すごく大事。「今年はちょっと違うな」と思ってもらえるような姿ではありたいなとは思いますね。
敵地での開幕となるが、大舞台の主役は譲らない。
■「エース」
これまでエースとしてチームを引っ張ってきた上沢のメジャー移籍が濃厚。開幕投手にも指名された伊藤が、いよいよ真のエースとなるシーズンにもなる。道産子右腕がイメージする、エースとは-。
伊藤 うーん…ダルさんも昔、言っていましたけど、そもそもエースってなんだろうっていうところで。言葉の1つにすぎないというか。1人1人が、その気持ちを持ってマウンドに上がらないといけないですし。先発は6人でローテーションを回っているんで、エースって言われるのも難しいですけど…なんて言うんですかね、第三者が判断するっていうか、後から見た時に「まあ、エースだね」って言われるものなんで。
伊藤から見て上沢や加藤貴は、やはりエースだ。
伊藤 上沢さんと加藤さんは、いい時も悪い時も最低限の仕事を絶対してくれる。僕なんか、ダメな時はダメっぱなしで切り替えがうまくいかなかったりとか…。そうじゃいけないなっていうのはすごく、おふたりに勉強させてもらったところかなと思いますね。
チームの顔でもあるエースは、すべての立ち居振る舞いが模範となる。
伊藤 野球に取り組む姿勢などをいろんな人が見て「やっぱ、さすがだなぁ」と思われるような人間じゃなきゃいけないと思う。4年目ですけど、年齢的には(チーム内の)ど真ん中ぐらいのイメージ。(上沢や加藤貴らに)僕らが見させてもらったように、いろんなことを見せて伝えていかなきゃいけない。
自覚を持った行動で、誰もが認めるエースとなる。
■「優勝」
伊藤が入団してから日本ハムの順位は5位、6位、6位。リーグ優勝への思いは年々、募るばかりだ。
伊藤 やっぱ勝ち続けたいという思いはあります。
似たような状況から巻き返したのがオリックス。2年連続最下位からリーグ制覇、今季まで3連覇を果たした。
伊藤 この間、(伏見)寅威さんに「最下位から優勝した時って、どんな景色だったんですか?」と聞いたんです。その当時は、負けることに慣れていたみたいですが、だんだん勝つようになって2、3連敗した時はチームとしてもピリつくというか、次は絶対に取らないといけない雰囲気になったと言っていました。
それを聞いて、昨季までの日本ハムの雰囲気を思い返してみたという。
伊藤 そこまで勝利に対してガツガツしているかっていったら、全員が全員そうじゃなかったと思うんです。自分のミスなどを気にしてしまって…。みんな「これ、まずいぞ」って自覚を持ってオフに入っていると思う。その思いが合致した時にとんでもないパワーになるようなチームだと思う。僕も乗り遅れないようにしっかりやりたい。
昨年はWBCに出場して、世界一の景色を見た。
伊藤 勝ちながら、どんどん強くなっていく感覚があって(短期決戦の道中で)バチン、バチンとハマっていく感覚もありました。それが長い143試合の中で、どうハマっていくのか。寅威さんも(オリックス時代に)「急に見えたよ」みたいに言っていたんで、そう導けるように…。大学の時も優勝はありますし、高校の時も全道大会は優勝…日本一だけ、取ったことがないですしね(笑い)。
今年こそ、つかみ取る。
■「メジャー」
伊藤は小学校の卒業文集で、将来の夢は「メジャーリーガー」と書いていた。野球の本場で世界一となった23年を終えて、現在のメジャーへの思いは-。
伊藤 う~ん…難しいですね(笑い)。そうですね…でも、正直ないことは、ないです。自分を、どこまでも高めたい気持ちは、もちろんあるんで。ただ、やっぱこの北海道で生まれて、北海道で育って、北海道のチームに入れるのは本当に奇跡というか、そんな物語はないと思う。絶対“ここ”で優勝したいなって。
幼少期から夢と希望を与えてくれた地元球団を日本一に導く。今、頭にあるのは、それだけ。その目標を達成したら-。
伊藤 優勝した時、いや日本一になった時に、どう考える自分がいるのかなって。ファイターズで自分が軸となって日本一になりました、で、じゃあ次は何の挑戦をしようかってなった時に、そういう選択肢はもちろん出てくると思いますけど、直近で(メジャー志望)はないですね。
伊藤 昨年のWBCではメジャーのトップ選手とも対戦した。自らの現在地は、どう感じたのか-。
ちょっと投げながらもハラハラする部分もあって、まだ圧倒的な何かが全然ない。まだ、流れと言われるものに左右される場面があるので、その何かを持てれば、その流れも自分で断ち切れると思う。流れを自分がつくるとか、呼び込むとか、そういうゲームを支配するような力を、まず身に付けたいですね。
初心はブレず。だが、まだ夢。まずは自らに課された使命と向き合う。
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■辰年、自分の中で縁起がいい
伊藤は辰(たつ)年と聞くと、不思議な力が湧く。
伊藤 これ、来たなって(笑い)。すごい自分の中で縁起いい、勇気づけてくれる何かがありますね。
12年前は駒大苫小牧への進学を決めた中学3年生。野球人生において大きな1歩を辰(たつ)年に踏み出した。
その駒大苫小牧時代に龍との縁は深まった。「苫小牧の樽前山神社は龍神を祀っていて、ずっとお参りに行っていました」。さらには「『竜驤虎視(りゅうじょうこし)』という言葉にも出会いました」。2年春のセンバツ出場時からグラブに刻む座右の銘。竜が威勢よく天にかけ昇り、虎が鋭くにらみつけるさまから投手目線で“竜のように余裕を持ちながら、目はしっかり勝負する”と意味を捉え、今も大事にする。
伊藤 竜驤虎視もずっと試合中にグラブを見る時に見ているんです。ちゃんと意味を自分の中で理解してマウンドに上がった時って、すごくいい結果が出ている。お守り的存在です。
初の開幕投手を務める節目も辰年。“お守り”とともに大役を全うする。
◆伊藤大海(いとう・ひろみ)1997年(平9)8月31日、北海道・鹿部町生まれ。駒大苫小牧2年春にセンバツ出場。駒大進学も1年秋に退学し、17年に苫小牧駒大に再入学。20年ドラフト1位で日本ハム入団。21年3月31日西武戦のプロ初登板から23イニング連続奪三振の新人タイ記録。新人から3年連続で規定投球回をクリア。侍ジャパンでは21年東京オリンピック(五輪)で金メダル、23年WBCで世界一に貢献。プロ通算73試合登板で27勝28敗、防御率3・11。今季推定年俸1億1000万円。176センチ、82キロ。右投げ左打ち。