巨人の将来の4番候補から、ようやく快音が生まれた。プロ3年目の大田泰示内野手(20)が22日、練習試合オリックス戦で2点を追う9回に引き分けに持ち込む、中越え同点2ランを放った。中学時代に野球教室で出会った原辰徳監督(52)に感銘を受けて同じ東海大相模へ進学し、08年ドラフト1位で入団。ここ2年は1軍で7打数無安打だったが、練習試合とはいえ、恩師の前で初めて本塁打を披露した。アスレチックス松井秀喜外野手(36)の背番号「55」を受け継いだ男が、正三塁手争いに踏みとどまった。

 思いのすべてを、力の限りを、大田が一振りに込めた。2点を追う9回1死二塁。7回守備から出場し「1打席しかないと分かってました」と集中力を高めて打席へ入った。初球を見逃し1ストライクも、焦りはない。西川の外寄りに甘く入ってきた外寄り高めの直球を、少し差し込まれながらも力で振り切った。

 「打った瞬間に、いったと思いました」。乾いた打球音を残した白球は風にも乗って沖縄の青空へ舞い上がり、中堅左のフェンスを越えた。練習試合とはいえ、プロ3年目での1軍“初本塁打”。「初球を見送ってしまったけど、しっかり振ろうと。しっかり押し込めました」。練習で日焼けした顔に、喜びと安堵(あんど)感が入り交じった。

 誰もが待ちわびていた瞬間だった。大田は中学生のころ、地元広島での少年野球教室で原監督と出会った。「頑張れよ」。そのひと言で、卒業と同時に親元を離れ東海大相模へ進学した。3年間で通算65本塁打を放ち、08年のドラフトで巨人とソフトバンクから1位指名を受けた。先輩でもある原監督がくじを引き当て、巨人のユニホームに袖を通した。その時から、巨人の未来を託された。

 だが、プロの世界は厳しかった。2年間で、1軍では7打数無安打。ほとんどの日々を2軍で過ごした。迎えた3年目。「原監督がくじで引いてくれて今の僕がいる」。あこがれであり、先輩であり、指揮官でもある原監督の前で、ようやく初めて本塁打を披露した。指揮官は「一応、瞬きは1回したかな」と、うれしさを隠しきれない様子で振り返った。

 今季は小笠原が一塁手に専念する方針で、新外国人ライアルと亀井の正三塁手争いの中に、食らいついていく状況だ。それでも指揮官は「大選手になったどんな人も、きっかけがあった。今回の1本が、そのきっかけになればいいね」と期待を込めた。

 「(1発出れば)同点という場面で打てたのは自信になります。これをいいきっかけに、次の試合も打席は少ないと思うけど、1打席1打席、やっていきたい」。練習試合のため、この1発は公式記録には残らない。後生の記憶に残る本塁打にできるかどうか-。背番号55の真価が問われるのは、これからだ。【浜本卓也】

 [2011年2月23日9時1分

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