<巨人4-1広島>◇13日◇東京ドーム

 巨人が3年ぶりのリーグVに向けてカウントダウンに突入した。広島に快勝して5連勝。2位中日が引き分けたため、優勝マジックはひとケタの8となった。5回、打率、打点でリーグトップの阿部慎之助捕手(33)が右翼へ23号2ラン。トップを行くヤクルト・バレンティンに4本差とし、初の打撃タイトル獲得はもちろん、3冠王まで射程に捉えた。MVP最有力候補の1発でさらに勢いをつけ、最短17日の胴上げを目指す。

 期待は裏切らない。これが4番だと言わんばかりの一撃を阿部が、かました。1点リードの5回2死一塁。広島先発今井の2球目、抜けたフォークボールが飛び込んできた。絶好球は逃さない。しっかり捉えた白球は、悠々と右翼フェンスを越えた。「フォークにちょっと抜かれたけど、その分、前で捉えることができた。自分自身でもうまく打てたと思うよ」。自画自賛した23号2ランで、本塁打王バレンティンまで、あと4本に迫った。

 「オレは無冠の帝王」と笑い飛ばす男が、偉業に向かって走っている。ここまで打率、打点の2冠の座に君臨。巨人では王貞治以来、捕手では野村克也以来となる3冠王を射程圏内に捉えた。「タイトルには縁がないよ。狙って取れるもんじゃないし」と話していたが、もはや夢物語ではない。重い扉に手をかけても「そんなにポンポン出るもんじゃないから。でも、頑張るよ」と、至って平常心だった。

 好打者と言われながらも、個人タイトルとは無縁で歩み続けてきた11年間。そんな阿部に今季は劇的な変化があった。「俺が、ここまで本気に、真剣になれたのは橋上さんのおかげだよ。野球を考えられるようになった。あの人に本気にさせてもらった」。安田学園高の先輩でもある橋上戦略コーチの存在を真っ先に挙げた。今季から導入された個人ミーティングで相手投手の傾向から狙い球などの助言を受けた。場面ごとの考え方にも注視し「極端に言えば凡打オッケーで(本塁打を)狙っていい打席とのメリハリがつけられるようになった」と、具体的な効果を挙げた。

 この日もそうだった。試合は中盤に差し掛かりリードは1点。走者を一塁に置き、カウントは1ボール。2死となれば4番として「1発を狙っていい」条件がそろっていた。一種の開き直りと、日ごろからの考える習慣で導き出した1発。原監督を「練習のときからのコンディションの作り方を含めての集中力。今タイトルを目指せる選手はごくごく一部の一流の選手なんです」と、うならせた。

 主将としてチームをけん引し、優勝マジックは、いよいよ1ケタ、8に突入。3年ぶりの頂点は目前まで迫っている。「長野とか修一(村田)とか優勝を経験していないやつらに、経験させてあげたい。こんなに、楽しくて、いいものはないと。その思いはすごく強いんだよね」と、チームの勝利に重点を置くのは、今までと変わらない。でも、周囲の期待には、やっぱり3冠王が含まれている。「そうなったらパーティーでもやろうよ」と、軽くかわしながら、東京ドームを後にした。【為田聡史】