プロレスラー世志琥(よしこ)が大人気だ。5月始めにTiktokに投稿したチュロス作りの動画をきっかけにブレーク。6月24日現在Tiktokのフォロワーは30万人。

ツイッターのフォロワーも4月末に4000人ほどだったのが、今は14万人超となっている。

お金をかけずにSNSでバズる。今どきのやり方で自己PRに成功した世志琥は痛快な存在だ。世志琥は以前からプロレス業界では有名だったが、世間一般での知名度はそれほど高くなかった。所属するSEAdLINNNG(シードリング)は選手4人の小さな団体。大きなスポンサーに支えられているわけでもない。それが、動画をきっかけとしてわずか1カ月で、国内で活動する現役女性プロレスラーでダントツのフォロワー数を得ることとなった。

世志琥の動画の一番の魅力はギャップ。ヒールらしく怖い形相でカメラをにらみ、「笑ってんじゃねーぞ、コノヤロー」といった口調で話しながら、かわいらしいお菓子や料理を作る。動画の最後に試食し、そこで初めてにっこりと笑う。その笑顔がまたかわいいのだ。ヒールのキャラクターとお菓子作りの特技をかけ合わせ、誰が見ても楽しめるコンテンツを作り上げた。

Tiktokでバズった直後の5月中旬ごろ、リモートでインタビューをさせてもらった。世志琥は「ほんとに、人生変わったんじゃねーかぐらいの勢いです」とうれしそうに話した。そもそも動画投稿に熱心に取り組み始めたのは、コロナの影響で試合ができないからだった。「逆にこの(自粛の)時期があって、ありがたいというか、すごく充実して、成長できていると思います」。以来、世志琥のメディア露出は続く。5月には情報番組「スッキリ」で紹介され、6月6日の「有吉反省会」は、その回まるまる世志琥特集。ドレスアップした姿で新日本プロレスの飯伏幸太に告白し、ディズニーランドデートの約束を取り付けるというかわいらしい姿をお茶の間に届けた。最近では日清食品とのコラボレーションも実現。同社の袋麺を使ったレシピ動画を6月18日から公開している。

例えば、街頭で「女子プロレスラー」の名前を挙げてくださいと人に聞けば、ほとんどの人が今の若手選手ではなく北斗晶、ダンプ松本、ブル中野、長与千種らレジェンドの名を口にするのではないだろうか。過去に地上波で試合が放送されていた時代と違い、女子プロレスは一部のファンだけが見るジャンルとなっている。その中で、世間に名前を広めた世志琥の力は大きい。プロレスラーは、試合でいいパフォーマンスを見せるのが第一の仕事だが、それだけを続けていても、プロレス業界の中にしか届かない。大事なのはリング外のきっかけをいかに作れるか。新日本プロレスが特に2012年以降多くの新規ファンをつかみ、大ブームを作り出したのは、試合の充実ぶりはもちろん、「スイーツ真壁」としてテレビに出続けた真壁刀義や、あらゆるメディアでPRを続けたエース棚橋弘至ら選手のリング外の努力もあったからだ。

世志琥は言う。「Tiktokを見ているのは小、中学生が多いんですよ。女子プロレスやプロレスに必要なのって、そういう若い年齢層だと思うので、ちょっとでも興味をもってもらって、会場に足を運んでくれたらいいなと思ってます。また、後楽園ホールを満員にしたいんです。それを目標にやってます」。SEAdLINNNGは7月13日に後楽園ホールで1月以来約半年ぶりの有観客試合を行う。また同26日には新木場1stRINGで世志琥プロデュース興行も開催する。いずれもソーシャルディスタンス確保のため座席数限定での興行となるが、世志琥の願い通り、新たなファンが来場することを期待したい。【高場泉穂】(ニッカンスポーツ・コム/バトルコラム「リングにかける男たち」)