静寂に包まれた館内で、取組が行われている。心の持ちようは力士それぞれだ。

小兵の石浦は「あまり周りを見ないようにしている」と花道を通る時や土俵に上がる時に周囲を見渡さない。いつもなら約7000人はいる観客が0。目に入るのは審判、呼び出し、行司、出番前の力士ら数人のみ。「1人1人の顔が印象に残ってしまって気になる」。さらに「記者の方も…」と、2階席の一部にいる報道陣も気になるという。

無音に敏感になる力士も多い。三役復帰を目指す栃ノ心は「お客さんがいないと不安になる。本当に静かで逆に緊張する」と静けさが重圧になるという。一方で「誰も見てないから緊張しない」と魁聖。しかし声援がないからこそ「気合が入りにくい。いい緊張感が出ない」と正直だ。錦木は「シャッター音が気になる」。いつもなら声援にかき消されるはずの、報道陣のカメラのシャッター音に戸惑う時があるという。

「時間いっぱいになったらいつも気合が入りすぎて頭が真っ白になる。だからいつもと変わらない」と言うのは、十両上位からの幕内復帰を目指す照ノ富士。史上初の無観客開催に、それぞれが経験したことのない心理状態で臨んでいる。【大相撲取材班】

御嶽海(左)のまわしをつかみ力強く攻める白鵬(撮影・河田真司)
御嶽海(左)のまわしをつかみ力強く攻める白鵬(撮影・河田真司)