王者井上尚弥(24=大橋)が「モンスター」の愛称にふさわしい圧勝KO劇で7度目の防衛に成功した。挑戦者の同級6位ヨアン・ボワイヨ(29=フランス)から左フックと左ボディーブロー連発で計4度のダウンを奪って3回1分40秒、レフェリーストップによるTKO勝ちをおさめた。既に同級で対戦相手が不在のため、18年から1階級上のバンタム級に上げ、世界3階級制覇を目指す意向を示した。

 敵ではなかった。1回終盤、井上尚は強烈な左フックでいきなりダウンを奪取。2回から足を使ったボワイヨをジリジリと追い詰め、3回には左ボディーで2度目のダウンを奪った。「感触があった」と相手の右脇腹を狙い、次々と左拳をねじ込んだ。右フックを浴びてよろめく挑戦者を最後も左ボディーで沈めた。レフェリーストップの圧勝劇。それでも、V7王者は笑顔をみせなかった。

 「物足りなさ、というかもっとヒリヒリする、ピリピリする試合がしたい。次はバンタム級でそういうことがあるのかなと思う」

 もらったパンチはほぼゼロ。試合当日朝、ものもらいで腫らした右目上以外はキレイな顔でスーパーフライ級“卒業”を宣言した。

 両拳の破壊力は既に同級で規格外だ。2週間前、ミット打ちで父の真吾トレーナーの首を「破壊」した。あまりの威力に頸椎(けいつい)を痛めた父は通院しながら1週間、ミット打ちを離脱せざるを得なかった。5月の世界戦前は父の手首の「破壊」でとどまっていたが、ついに首まで痛める衝撃度に。半年で肉体的に成長した証明だった。

 9月の衝撃的な米デビュー戦の反響で、翌10月にはニューヨーク・タイムズ紙の取材も受けた。井上尚は「これからもボクシング界を盛り上げたい」と胸を張った。これで世界戦のKO数は9まで伸びた。歴代1位の内山高志の10に王手をかけ、バンタム級に進む。

 師匠の大橋会長は「バンタム級には(世界最速11秒KO記録を持つWBO王者)テテもいるし(WBC王座戦の)ネリ-山中戦もある。いろいろ動くのでチャンスがあれば狙う」と5月にも王座挑戦の場を設ける構え。10月に生まれた長男に向け、井上尚は「(試合が)分かるぐらいになっても、強いお父さんでいたい」。3階級制覇を狙う18年。その夢は無限に広がっていく。【藤中栄二】