日本ボクシング史に残る究極の一戦が迫った。WBA・IBF世界バンタム級王者井上尚弥には、階級最強を決めるトーナメントを制するためにサポートしてきた人たちがいる。肉体、食事、ヘアカット。井上尚が信頼を置くスペシャリストたちが見たプロ魂を3回にわたって連載する。

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井上尚のヘアカットはアース横浜店オーナー、上園義幸氏(34)が担当している。事前に受けた本人の提案を頭に入れ、フォルムをイメージ。昨年10月、70秒KO勝ちを収めたWBSS1回戦(フアンカルロス・パヤノ戦)以来の国内戦となるため「昨秋がインパクトあったので、その勢いを入れる意味で決勝はあの時の強化バージョンになります」と明かした。

パヤノ戦はグレーにベージュをプラスした「グレージュ」というカラーだったが、今回は本人の意向もあってより強いグレーでカラーリング。髪の長さもトップはより長く、サイドとバックはより短くして強弱をつけた。同氏は「老若男女に好感を持ってもらえるスタイルになってます」と自信をのぞかせた。

12年のプロデビューから井上尚を任される上園氏は「ビックリするぐらい、オーダーは細かいです」と苦笑する。カットの長さは常にミリ単位。「もう少しとか、あいまいは一切、ない。『あと1ミリ』『ここを3ミリ』とか」。17年9月、WBO世界スーパーフライ級王座の6度目の防衛戦(米カーソン)、そして今年5月のWBSS準決勝(英グラスゴー)も依頼を受けて現地に飛び、試合直前にヘアカットした。

上園氏は「教えたことないのですが、井上君はスタイリングもうまい。髪のくせとか知っていて探求心も旺盛。ミリ単位のこだわり、ヘアの見せ方はボクシングにも通じていると思います」。井上尚とのカット時間を「勝利の儀式」と呼ぶ同氏は「自分の中で勝利の念を送ります」。上司のアースHD国分利治代表取締役から「尚弥ヘア」と命名される数々の髪形は社内で無敗カットと呼ばれている。上園氏の手がけた勝利を呼ぶヘアスタイルで井上尚がバンタム級頂上決戦のリングに立つ。(おわり)【藤中栄二】