最後に選んだのは、やはり最愛のパートナーだった。

24年から米団体AEWに拠点を移す坂崎ユカが、10年前にデビューした地で東京女子最後の日を迎えた。3WAYマッチに勝利後、セコンドにいた瑞希から「もっと一緒に組んで試合したかった」と言われると、「じゃあ、今からやるか」と長くパートナーとして隣にいた相棒とのシングルマッチが急きょ実現。与えられた時間は3分。「けんかもしたことがない」という大好きな瑞希と肌を合わせ、2人だけの時間を楽しんだ。瑞希の技をかみしめるように受け、2人でリングに倒れ込み、熱い抱擁で最後の試合を終えた。

この日はもともと山下実優、中島翔子との3WAYマッチが組まれていた。「卒業を決めた時からこのカードだと思っていた」。旗揚げから10年間、苦楽をともにしてきた仲間でありライバルたちとリング上で激しくぶつかり合った。山下の強烈な蹴りを前から後ろから上からと20発近く浴び、中島にはアクロバティックな攻撃に翻弄(ほんろう)されたが、最後まで立ち続けた。最後は返す力のない中島に「ありがとう」と声をかけ、渾身(こんしん)のエルボーで沈めた。

芸人になりたくて上京。その日暮らしを続ける中、プロレスに出会った。最初はリングもなく、ライブハウスでアイドルのライブ後にマットを敷いて行っていたことも。観客は数十人、チケットも手売りした。家賃3万5000円のアパートに住みながら、アルバイトと練習の毎日。それでも「苦しかったけど辞めたいと思ったことはなかった」。デビューした地で10年間の思いをすべてぶつけ「大きく育ててもらってありがとう」と感謝した。

5月の卒業発表後、すぐにケガで離脱。治療中は「見るとやりたくなっちゃうから」と試合を見るのも我慢するほど、プロレスが、仲間が大好きになっていた。最後は会場の出口に立ち、帰るファンを笑顔で見送った。

「東京女子に生まれてきてよかった。これからも誇りに思って頑張っていく」。リング上では、大号泣の瑞希の隣で、笑顔を振る舞っていたが、バックステージで、プロレスラーの道に招き入れてくれたCyberFight高木三四郎社長からねぎらいの言葉をもらうと、目を潤ませた。AEWでベルトを取って、東京女子で防衛戦をやるという野望もある。東京女子10年間で得た宝物を持って次なるステージへ旅立った。【松熊洋介】