プロボクシング4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(32=大橋)が14日、名古屋・IGアリーナでWBA世界同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(30=ウズベキスタン)との防衛戦に臨む。「キャリア最大の強敵」との対決に向け、プロ転向後、初めて名門の帝拳ジムに2度、出げいこを敢行した。幼少期から井上を指導し続ける父真吾トレーナー(54)が、その意図を明かした
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プロ転向後初、アマチュア時代以来13年ぶりという出げいこの意図について井上は「他ジムに行って違うジムの雰囲気、環境、また違う人が見ている前でスパーリングすることは一段と自分への緊張感というか集中力を上げてくれる。アフマダリエフ戦はそれぐらいの試合」と説明していた。8月4日にWBOアジア・パシフィック・フェザー級王者藤田健児(31)と3回、日本バンタム級王者増田陸(27=ともに帝拳)と4回で計8回、そして同7日に増田と5回のスパーリングを実施した。
1度ではなく、なぜ2度なのか。井上は「やった意味はすごくありました」と強調した。真吾トレーナーは「自分と尚弥しか分からないことなんですが」と前置きした上で、続けた。
「普段、大橋ジムでやっている感じで帝拳ジムでできないといけない。できて100点。多分、周りから見たら違いは分からないと思うのですが、本当に細かいところ見ているところ、初日は感じるところが尚弥と一緒だった」
スパーリングは帝拳ジムの浜田剛史代表をはじめ、増田を担当する大和心トレーナー、藤田を担当する粟生隆寛トレーナーらが見守っていた。その「視線」を欲していたという。真吾トレーナーは「例えば挑戦者の情報が『格下だよ』とか、周囲がいろいろな目で見ているとなると、いろんなことが絶対に出てくるんですよ」と明かす。
今年5月、米ラスベガスで対戦したWBA世界同級1位ラモン・カルデナス(米国)にはキャリア2度目のダウンも喫した。勝って当たり前とみられる中で倒さなくてはいけない心理は嫌でも働く。周囲の目から生まれる、本当に微妙に「無理に」「強引に」をいかに「丁寧に」「冷静に」と切り替えられるか-。「キャリア最大の強敵」アフマダリエフには「無理に」「強引に」は必要ない。
国内屈指となる名門ジムの指導者たちの目も感じながら実戦トレーニングする井上親子しか感じられないチェックポイントがあったと言う。
「正直、1回目は100点ではなかった。出げいこが1回だけだったら変なイメージだけが残ってしまった。2回目の尚弥は本当に変わっていた。精神面のリセットができた。修正力も強いし、言ったことがパチーンと入って本当にやってくれた。2回目は100点。帝拳ジムに行くことができて良かった」。
以前から出げいこプランの話はあったという。真吾トレーナーは「結構、前からフィリピンとか他国でもやってみたいよね、という話を尚弥がしていた。でも、なかなかタイミングがなくて…。今回はそういう話の流れで、(大橋秀行)会長が動いてくれたのだと思います。そうしたら帝拳ジムさんが協力してくれました」と感謝した。
井上はバンタム級時代の22年9月、米ロサンゼルスでプロ初の海外合宿を経験している。元6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)を育てたフレディ・ローチ氏ら現地トレーナー、選手が見守る中で世界ランク1位選手とスパーリングを実施。帰国時、こう口にしていた。
「向こうの選手やトレーナーが見ている中でのスパーリングは刺激的だったし、いいトレーニングになった。見られている中でのスパーリングはメンタルトレーニングにもなる」。
その後、井上は22年12月にバンタム級、23年12月にスーパーバンタム級に4団体統一に成功。史上2人目となる2階級での4団体統一を成し遂げた。出げいこするとさらに強くなる。アフマダリエフ戦の井上のファイトに注目が集まる。

