4団体統一スーパーバンタム級王者井上尚弥(32=大橋)が世界新記録となる同統一王座の5度目防衛に成功した。WBA世界同級暫定王者ムロジョン・アフマダリエフ(30=ウズベキスタン)と対決し、無理にKOを狙わず、冷静に「打たせず打つ」スタイルで3-0の判定勝利を収めた。相手のパンチを空振りさせ、手堅くパンチを打ち込む12戦ぶりの判定白星だった。世界タイ記録となる世界戦26連勝に到達。12月のサウジアラビア初進出へ、大きなはずみをつけた。
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一瞬の隙もみせなかった。12回を通して井上は触れさせなかった。ワンツーでアフマダリエフを止め、接近した瞬間に右アッパーからの左ボディーをねじ込んだ。中盤に「こい!」と挑発されても乗らない。要所で右ストレート、左フックを入れて主導権を握った。「アウトボクシングもいけるでしょ。誰が衰えたって? それは冗談にして。アフマダリエフ選手の実力をすごく評価しているから今日、このパフォーマンスができました」
19年11月のノニト・ドネア(フィリピン)戦以来、12戦ぶりの判定勝利だった。当日体重は6・3キロ増にとどめ、速さ重視の戦いを選択。井上は「倒しにいかないことがこれほど難しいとは。我慢が1つテーマ。本当に、何回いってやろうかと思ったシーンはあったが、そこをこらえて判定まで持っていけた。100点つけていい」と口にした。米プロモート大手トップランク社のボブ・アラムCEO(93)は「コンプリートファイターだ。速さと技術だけでなく戦略に沿って戦える。史上最強最高のファイター」と絶賛。所属ジムの大橋秀行会長(60)も「判定勝ちもみせられる。この何年かで1番の試合。判定でもここまでみせられる」と合格点を出した。
23年4月にアフマダリエフを判定撃破した元2団体統一同級王者マーロン・タパレス(フィリピン)との1カ月間にわたる実戦トレに収穫があった。常にタパレスから助言があり、井上もアフマダリエフの強打の威力を確認。井上は「イメージが膨らんできました」との手応えがあった。
プロ入り初の出げいこで帝拳ジムに2度出向き、他ジムの関係者が見守る中、所属先と同じパフォーマンスが出せるかをチェック。昨年から目立った「無理に」「強引に」を「冷静に」「丁寧に」へと変換する意味があった。それをアフマダリエフ戦ですべて出してベルトを守り切った。
12月27日、満を持してサウジアラビア初進出を果たす。井上は「精進して素晴らしいボクシングをみせる」と気合を入れた。最後にリングから「中谷くん、あと1勝! 12月は頑張って東京ドームで試合しましょう!」と叫んだ。井上には多くの刺激的な戦いが待っている。【藤中栄二】
○…大差の判定で敗れたアフマダリエフは、ドーピング検査を理由に会見を欠席した。代わって出席したディアス・トレーナーは「しっかり準備してきたが、スピードのところが劣っていたかなと思う」と敗因を口にした。右目の下が青く晴れていたが、同氏は「フィジカルのダメージは一切ない」と否定して「井上はいいパンチを持っているし、当てられたパンチもあったしダメージがあったか、と言われれば、ダメージはなかった」と強がっていた。
○…WBC、IBF世界バンタム級王者中谷が井上の防衛戦をリングサイド最前列で視察した。8月末にWBA世界スーパーバンタム級1位に入り、来年5月に無敗対決が計画されている。去り際に井上から「中谷君、あと1勝! 12月、お互い頑張って来年、東京ドームで盛り上げましょう!」と呼びかけられると、両手でガッツポーズ。「より強くならないといけない。強くなります」と話した。

