見え隠れする出口をようやく探し当てたのが、10戦全勝した高安との前日の稽古だった。「土俵の中でいい感覚になってきた」。その夜「絶対に出る」と決めた。心が固まれば視線は本場所へ。体調を見極めて、この日は稽古を休んだ。

 そんな“眼力”の鋭さは前夜祭に表れた。白鵬ら3横綱と高安、御嶽海、嘉風、正代の8人で臨んだ、質を見極めるクイズ。最初の10万円と3000円のワインの味の違いで「古い味がした。古い方が高いかな」と分析してみせると、続く松阪牛ではなく飛騨牛を当てる問題でも「(松阪牛は)非常に脂が多く、こっちの方があっさり」と正解。30万円と10万円のニシキゴイの違いも外さなかった。

 クイズとはいえ、真顔で臨んだ勝負の場。ここまでで全問正解は稀勢の里と御嶽海だけ。4問目の高級バイオリンの音色で間違えて“降格”したが、劇的な結末は最終問題にあった。

 名古屋場所でまく塩と市販の塩。手に取り、舌でなめたこの見極めは誰もが簡単とうそぶいた。いざ解答。すると選んだ塩は、触れず直感だった正代と2人だけ。残る6人は反対側だった。思わず“やってしまった”と顔をしかめた…が、当たった。「うまみがあったから」とドヤ顔で胸を張る。もっとも、司会のデーモン閣下の「バンバンまくからマズイ塩なんです」で会場は笑いにつつまれた。

 春場所のような逆転劇で“一流”を証明した横綱は、名古屋も「しっかりやるだけ。なるようになると思う」。次は白星と黒星の相撲の違いを、その体で見極めていく。【今村健人】