徳勝龍の幕尻優勝に始まった今年の大相撲は、新型コロナウイルスとの闘いとなった。春場所は初の無観客。5月の夏場所は中止、7月の名古屋、11月の福岡は東京・両国国技館に変更となった。厳しい状況下でも、土俵上で多くのドラマが生まれた。今年1年、幕内を務めた力士が対象の年末恒例連載「第9回日刊スポーツ大相撲大賞」は、独自調べで発掘した好記録や珍記録を表彰する。

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各段優勝が最も多かった部屋が受賞する「ワンチーム賞」は、伊勢ケ浜部屋が受賞した。3力士が4度の各段優勝(幕内1回、十両2回、幕下1回)。宮城野部屋(幕内1回、三段目1回、序二段1回、序ノ口1回)と同数だったが、各段の“レベル”を考慮して、伊勢ケ浜部屋に軍配が上がった。幕内と十両で2回優勝して部屋を引っ張った照ノ富士(29)は「みんなが稽古を一生懸命やった結果」と胸を張った。

5年ぶり2度目の幕内優勝を果たした7月場所では、部屋の連帯感を印象づけるような“援護射撃”もあった。2敗目を喫して優勝争いから1歩後退したと思われた14日目。優勝を争っていた朝乃山を、同部屋の照強が足取りで破った。照ノ富士も「あれがなかったら優勝できていなかった」と振り返る。部屋一丸となってつかんだ賜杯だった。

ほか2度の各段優勝は、翠富士(24)が11月場所で十両優勝、錦富士(24)が春場所で幕下優勝という内訳で、近大を中退して角界入りした同級生コンビが貢献した。

錦富士は昨年秋場所で左肘を負傷して失意の中、師匠の伊勢ケ浜親方(元横綱旭富士)から「本場所は行われるんだから、痛みがある中でもやっていく術を身につけろ」と言葉をかけられた。部屋付きの安治川親方(元関脇安美錦)や照ノ富士も、たび重なるけがを乗り越えてきた。「稽古場でも(関取と若い衆が)積極的にコミュニケーションを取るのが、うちの部屋の良さ」と錦富士。手本になる兄弟子がたくさんいる。

11月場所で十両優勝を果たし、来年1月の初場所(10日初日、東京・両国国技館)で新入幕が確実の翠富士は、豊富な稽古量が実を結んだと説明する。「他の部屋に出稽古行ったときに感じるが、これだけ“がっつり”やっているのはうちの部屋だけなんじゃないかと思う」。初場所の1カ月前でも、翠富士は申し合いで計30番は相撲を取るという。

前述の朝乃山撃破のインタビューで照強は「自分の星どうこうより、援護射撃の気持ちが強かった。伊勢ケ浜軍団として援護できれば」と語った。11月場所で好成績を残したベテラン宝富士(33)も健在。2021年も“伊勢ケ浜軍団”の存在感が増していきそうだ。【佐藤礼征】