2020年が間もなく終わる。コロナ禍にあったこの1年は、相撲界でもさまざまなことが起きた。角界での「印象に残った10の言葉」を、順に紹介する。今回は後編。【取材・構成=佐々木一郎】

(6)「前座に僕の相撲を見て楽しんでもらって、半沢直樹で締めてもらえれば」(翔猿、9月26日)

9月の秋場所は翔猿が優勝争いを盛り上げた。新入幕の東前頭14枚目ながら白星を重ね、14日目は大関貴景勝戦。敗れたものの、千秋楽に優勝の可能性を残した。そんな時、オンライン取材で冒頭のコメントが出た。TBS系の大人気ドラマを引き合いに出すなど、翔猿はサービス精神旺盛で弁が立つ。優勝はならなかったが、この場所で顔と名前が知られるようになった。

(7)「至誠一貫」(正代、9月30日)

秋場所で初優勝した正代が、大関昇進を決めた。昇進伝達式では「至誠一貫(しせいいっかん)の精神で相撲道にまい進してまいります」と口上を述べた。至誠一貫とは「最後まで誠意を貫き通す」などの意味。部屋の後援会「木鶏会」関係者から提案された正代は「調べたらいい意味だったんで、使わせてくださいと言いました」と説明した。実は伝達式当日、他紙にこの四字熟語を使用することを抜かれた。伝達式での口上を事前に探るのは伝統的な取材だが、当事者がネタバレを防ぐためになかなか事前に漏れない。分かったとしても、サプライズを妨げることになり、やや抵抗感も残る。悔しさも少しあったが、当然ながら、昇進を祝う気持ちでいっぱいだ。

(8)「ついに出たというか、何とも言えないですね」(宇良、11月12日)

11月場所5日目、十両の宇良が旭秀鵬に居反りを決めた。印象に残ったのは、コメントというより技かもしれないが…。十両以上では1993年初場所で十両の智ノ花が花ノ国戦で決めて以来、27年ぶりだった。

(9)「何も考えていなかった。脳の指令で体は動く。初めて脳を止めて体に任せた」(貴景勝、11月22日)

11月場所は大関貴景勝が制した。千秋楽の本割で照ノ富士に敗れ、優勝決定戦は勝った。本割は豪快な浴びせ倒しで下敷きになり、決定戦へ向けてどう気持ちを切り替えたのか? この問いに対する答えが、このコメントだ。貴景勝は常に自分と向き合い、考え抜いた末に行動を起こしていることがコメントににじむ。そのため自然と自分の言葉になり、共感できることが多い。

(10)「かなり長かった。やっとかという感じ」(鶴竜、12月10日)

モンゴル出身の鶴竜が、日本国籍を取得し、こう言った。手続きを始めてから約2年半もかかったという。すでに35歳で、3場所連続休場中。日本国籍を取得したことにより、親方として日本相撲協会に残る資格を得た。本人はもちろん、この朗報には相撲ファンの多くが胸をなで下ろした。同時に、日本人でなくては親方になれないというシステムはいかがなものか、という議論も再燃した。(おわり)

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