天国の恩師に白星を届けた。大関経験者で西前頭7枚目の朝乃山(29=高砂)が、5連勝で序盤戦を無敗で終えた。

西前頭8枚目の平戸海を一方的に寄り切り。大関豊昇龍が初黒星を喫したため、全勝は関脇琴ノ若と2人だけとなった。この日は4年前に55歳で亡くなった、母校近大の元監督、伊東勝人さんの命日。当時の思い出話を披露しつつ、教えを守って成長した姿を見せ続けると誓った。

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相手を35キロ上回る、172キロの重さに裏付けられた圧力で白星をつかんだ。朝乃山が立ち合いから一方的に寄り切り。ただ、立ち合いは呼吸が合わなかった。先に両手をついていたのは平戸海。だが朝乃山が手をつく直前に、腰を浮かせる動作を見せたこともあったためか、平戸海は一瞬、前につんのめる格好に。相手が完全に立ち遅れたことで「待ったかと思った」という。「でも『はっけよい』と言われた時点で、力を出し切るしかなかった」。やや不完全燃焼だったが、体格差を生かして完勝した。

この日の朝稽古後、大きな体に育ててくれた近大在学時の監督、伊東さんの思い出を語っていた。学生時代は「よく食事に連れて行ってもらった。店をはしごした印象が強い。食事の後にまた食事、さらに食事とか。とにかく、いっぱい食べさせてもらった」と、懐かしそうに話した。すし店で満腹になった後、中華料理店で特盛り&大盛りのラーメンなど。4年間で体重は、入学時の140キロ足らずから、卒業時の約160キロへ、20キロほど増加した。

また他の多くの強豪校とは違い、レギュラーになっても下級生としての部の仕事は軽減されなかった。上下関係は厳しかったが「その中で礼儀作法を学んだ」と感謝。それがファンへの丁寧な態度などに表れ、屈指の人気者へ押し上げた。

今、思い出す恩師の顔は「厳しい顔と優しい顔が半々」だという。稽古場での厳しさも、普段の優しさも忘れられない。「今場所だけではなく、毎場所結果で恩返しすることが大事。伊東監督に教わったことを守りながら」。不完全燃焼の黒星を喫した同期の平戸海を思いやったのも、恩師の優しさを受け継いだ証明なのだろう。【高田文太】