西前頭筆頭の朝乃山(30=高砂)が、大関経験者として、幕内優勝経験者として意地を見せ、番付の重みを示した。勝てば文句なしで、110年ぶりの新入幕優勝と、所要10場所という最速優勝記録更新だった尊富士(24=伊勢ケ浜)を破った。相手の出足を組み止め、右をねじ込むとグイグイと前に出て寄り切った。

取組後、胸の内を明かした。「(尊富士が)単独で先頭を走っていて、自分に勝ったら110年ぶりという歴史があった。どうしてもそれだけは避けたいと思っていた」。偉業達成を許した相手として、後世に名を残してしまう屈辱を味わわされたくなかった。その一心で、前へ、前へと出続けて白星をつかんだ。前夜も「相手が今場所、どうやって取ってきたかを見た」と、今場所の尊富士の取組映像を見て研究。「土俵に上がったら、目の前の相手との一番に集中した。力を出し切った。「自分の相撲を信じて」と胸を張った。

昨年秋場所千秋楽でも、同じ伊勢ケ浜部屋の熱海富士に、負ければ110年ぶりの十両&幕内の連続優勝を、目の当たりにする状況で勝っていた。尊富士の場合は負けても、直後の大の里、結びの一番の豊昇龍と、3敗の2人がそろって敗れれば優勝する可能性はあった。ただ、朝乃山が再び新鋭の壁となり、目の前での自力優勝は阻止した。5連勝で9勝5敗。三役返り咲きを確実とするためにも、千秋楽の残り1番で2桁白星到達を目指す。

前日13日目は、小結阿炎を破って勝ち越しを決めた。相手のもろ手突きの立ち合いから、回転の速い突っ張りを受けながらも、上手出し投げなどを駆使して反撃し、最後は相手がバランスを崩したところを突き落とした。取組後は「土俵際に持っていった時に決めないといけない。しっかりと腰を割って、下から攻めないといけなかった。早く勝負をつけたいのか、上体で相撲を取っていた」などと、反省の言葉を並べていた。体の動きは悪くなかったが、内容には物足りなさを感じる日が続いていた。

12日目から、全取組後に審判部が会議を開き、翌日の取組を決めており、朝乃山が前日の取組を終えた時点では、14日目の対戦相手は決まっていなかった。ただ朝乃山も対戦を予感していたように、13日目に尊富士に敗れた若元春から情報収集。取組が1番違いで、その後の風呂場で一緒のタイミングになった際に「尊富士、どうだった?」と、たずねていた。報道陣から尊富士との対戦が組まれる可能性があると耳にすると「自分は1つでも白星を積み重ねられるように、頑張るだけです」と話していた。

勝ち越しを決めたが、あくまで目標に掲げていたのは2桁白星だった。現状で三役は、負け越しが決まっている小結錦木の陥落が確実で、1枠は空く見込み。他の前頭上位の成績にもよるが、目の前での歴史的な優勝を阻止した勢いを千秋楽、さらには来場所につなげたい。それだけに今は「千秋楽、悔いのないように思い切って頑張りたい」と力説。千秋楽まで連勝を伸ばし、三役返り咲きを飾るつもりだ。