原案となった小説は、腸チフスの後遺症に悩まされていたコナン・ドイルが、その療養中に友人から聞いた「黒い魔犬の伝説」に着想を得ている。当初はシャーロック・ホームズ以外の主人公を考えていたようで、「死の淵」をさまよった作者の幻想が反映された、シリーズでも異彩を放つ作品になっている。

映画「バスカヴィル家の犬 シャーロック劇場版」(17日公開)も舞台を瀬戸内海の島に移し、一昨年のテレビシリーズより、おどろおどろしい感じを強めに出している。

資産家(西村雅彦)がテレビ通話で獅子雄(ディーン・フジオカ)と若宮(岩田剛典)のコンビに調査を依頼する序盤のくだりは、テレビシリーズをほうふつとさせる軽妙なやりとりで、初見の観客にもコンビの関係性をさらりと伝えてくれる。

舞台が島に転じると、雰囲気は一変する。廃坑周辺の荒涼とした感じは半端なく、犯行を象徴する場として効いている。寂れた島には不釣り合いの資産家の邸宅。ここで、誘拐事件と殺人事件が重なり、推理を楽しむ獅子雄と実直な若宮の謎解きが始まる。

一家は資産家と車椅子の妻(稲森いずみ)と長女(新木優子)長男(村上虹郎)、そして執事(椎名桔平)。長女に思いを寄せる地震研究者(小泉孝太郎)と出入りのリフォーム業者の夫妻(広末涼子、渋川清彦)がこれに絡む。

莫大(ばくだい)な資産を巡る典型的な事件であり、登場人物も限られているので、ミステリー好きならば、犯人の当たりを付けるのはそれほど難しくないかもしれない。

が、「実は」という人間関係がうまく隠されていて、この関係性を手繰るのがこの作品の謎解きの芯になっている。「ガリレオ」シリーズなどで知られる西谷弘監督は、その辺を巧みに小出ししていく。

獅子雄の異色探偵ぶりは、この作品だけを見ればいかにもディーン風という印象だが、放送中の「パンドラの果実」の刑事役を思い浮かべ、そこに重ねてイメージすると、随所に微妙なキャラクターの演じ分けを実感する。この人の役への入り方は想像以上に深い。【相原斎】