「あなたの微笑み」は、自主映画の上映に奔走する映画監督の姿をシニカルに描いた日本列島縦断のロードムービーだ。マレーシア出身で、国際映画祭の常連であるリム・カーワイ監督(49)がメガホンを取り、盟友・渡辺紘文監督(40)が自身を投影した「監督役」で主演している。11月12日の公開を前に2人に聞いた。
-それぞれ独特の作風で知る人ぞ知るお二人ですが、いつ頃からのお知り合いですか。
リム 16年の東京国際映画祭です。人づてに面白い映画を撮る人がいると聞き、お会いしました。自ら出演されている作品の中では、かなりアクの強いキャラクターですが、本人はもの静かな好青年というか「好中年」ですね(笑い)
渡辺 リムさんも個性的な作品を撮る人だし、他の人の作品の感想を語り合う映画好きの友だちですね。
リム 極論すれば東京映画祭で年に1回会う関係。他の人の作品の悪口を言い合っているうちに、映画の好みがほぼ同じということもあって意気投合しました。自主映画をやっている割にはそろってハリウッド大作も大好きで、ジャンルにはこだわらない。そこも気が合います。
-今回の作品はどのように生まれたのでしょうか。
リム 僕は大阪を拠点に、中国やバルカン半島でもロードムービーを撮ってきましたが、コロナ禍で日本を出るのが難しくなった。そこで日本縦断を、そして、主人公には全国の劇場に自分の作品を売り込む映画監督を、と考えたわけです。最初から渡辺監督をイメージしていました。
渡辺 他の監督の作品でメインキャストというのは初めてで不安もあったのですが、リムさんと一緒に仕事ができる期待感が大きくて気合が入りましたね。
-序盤は渡辺監督の奮闘ぶりがコミカルですが、コロナ禍に苦闘する地方の劇場がドキュメンタリーのように映し出される中盤以降はどんどんシリアスになっていきますね。
リム 自主映画をやっているので自分で劇場に売り込むのは実際にいつもやっていることです。でも、それは大阪や東京に限ったことで、地方には行ったことはありませんでした。もちろん地方にも売りこみたいという思いはあるのですが、地域に1館しかないところに僕の作品をかけることは、その劇場にとっても僕にとっても収益的にあり得ないわけです。カンヌ映画祭でパルムドール(最高賞)を取った監督でも無理なわけです。この監督の行動はそういう意味でも笑えるほどバカバカしい。ま、その辺は分かった上で渡辺さんにはむちゃな役回りをやってもらいました。
-首里劇場(21年閉館)、別府ブルーバード劇場、小倉昭和館(22年火災焼失)、ジグシアター、豊岡劇場(22年休館)、サツゲキ、大黒座と地方の名だたるミニシアターが登場し、撮影後にやむなき理由で閉館したところもありました。
渡辺 僕にとってもすべて初めて行った劇場ばかりでした。それぞれしっかりと映画興行に向き合っていらっしゃるのが印象的でした。で、もちろんですが、実際に出演もしていただいた館主の方々も僕のことをまったく知らない。ま、地元の栃木県大田原市でも誰も知らないのだから当然ですが(笑い)-その辺のやりとりはとってもリアルに映ったと思います。
リム 栃木の野球場でゲリラ撮影をしているときに突然警備の人がやってきたことがありました。渡辺さんの地元ではあるし、顔は知られていると思ったから「この人は『世界のワタナベ』ですよ!」と抗議したんですけど、全然通じませんでした(笑い)
渡辺 普通に怒られて終わりでしたね。
-確かにその「誰も知らない」というところが、この作品の笑いのポイントにもなっていますね。渡辺さんのキャラクターが生かされているのはもちろんですが、随所に登場するミューズ、平山ひかるさん(23)が魅力的でした。
リム 最初は女優無しで撮影を始めたんです。でも、出発点の沖縄でこのままで北に向かうのは寂しいと思い、急きょSNSで募集したんです。それで知り合いのプロデューサーが紹介してくれたのが平山さんでした。映画経験はないけど、松任谷由実さんのツアーなどでダンサー実績がある。ひと目見てこの人だと思いました。ダンスシーンも加わって、作品に奥行きができたと思います。
渡辺 僕は前日言われて、その翌日に撮影というダンスシーンをさせられましたから(笑い)。
-そもそも映画を志したきっかけは。
渡辺 映画好きの父親の薦めで、中学の頃に一連のアメリカン・ニューシネマをビデオで見たのがきっかけですかね。大学で東京に出てからは、毎日のように池袋の新文芸坐に通い、卒業後に今村昌平監督が作った日本映画学校に入って天願大介監督(今村監督の長男)に師事したわけです。
-今村監督から「映画は脚本8割」と聞いたことがあります。
渡辺 お前は今村学校なのにとっちらかっている、と言われます(笑い)。
リム 僕は大学が理工系でエンジニアだったのですが、6年間のサラリーマン時代に人生で一番映画を見た感じで、特に台湾のエドワード・ヤン監督に憧れ、会社を辞めました。実はヤン監督も電気工学関係からの転職で、自分も、と。
-今回の作品でも温泉街の陰影の感じにヤン監督の雰囲気がありました。
リム うれしいですね。
-エンドロールで映し出される実際の館主さんたちのインタビューも印象的でした。
リム 僕も感動しました。都会のミニシアターとは違う工夫があり、思いがある。苦しくてたいへんだけど、皆頑張って楽しく、前向きにやっている。
渡辺 お会いしてみて実感したのですが、館主さんたちも常連さんたちも原動力になっているのは映画に対する愛情なんですね。僕自身、映画というものが生き残るためにもっと真剣に考えなければいけない。改めて思いましたね。
-次回作は
リム 今回の続編を撮りたいですね。次回は渡辺さんにヨーロッパの映画祭での「売り込み」をしてもらい。その次はハリウッドに行ってもらいたい。
渡辺 うれしいけど、そのためにはまずこの作品を当てないといけません(笑い)。
【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)
◆リム・カーワイ 1973年マレーシア生まれ。北京で「アフター・オール・ディーズ・イヤーズ」(10年)を撮って監督デビュー。21年には香港インディペンデント映画祭を主催。国籍や国境にとらわれない創作活動を続けている。
◆渡辺紘文(わたなべ・ひろぶみ) 1982年(昭57)栃木県生まれ。地元大田原市で制作集団「大田原愚豚舎」を旗揚げし、「そして泥舟はゆく」(13年)などを監督。「プールサイドマン」(16年)が東京映画祭スプラッシュ部門作品賞となった他、各国映画祭で高い評価を得ている。




