「黄金泥棒」(4月3日公開)は、13年前に起きた金製仏具の盗難事件に着想を得ている。
札幌三越で開催された「大黄金展」会場から約530万円の18金の「おりん」を盗んだのは、会場を訪れていた平凡な主婦だった。8日後に夫に連れられて自首し「きれいだなと思って盗んだ」と供述。来場者が気軽に手にできる状態だったおりんをそのまま手提げのバッグに入れたと話した。
映画は舞台を福岡に移し、日々の生活に退屈していた主婦が「秀吉の金茶わん」を盗み出すクライム・コメディーに膨らませている。
就職氷河期で勤め先が決まらなかった美香子(田中麗奈)は、優しい夫(阿諏訪泰義)に恵まれたが、心は満たされない。ふらりと足を運んだ「大黄金展」で、思い付きのように金のおりんをバッグに入れてしまう。
数日後、おりんを返すために夫と共に開催社のSGCを訪れると、担当の金城(森崎ウィン)は、あっさりと示談による内々の処理で済まそうという。
よく見れば美貌の美香子、そして業界内でひそかにウワサが広がる「黄金泥棒」という付加価値を富豪相手の自身の営業活動に利用しようという魂胆だった。
金城の誘導で危うく富豪の夜の相手をさせられそうになった美香子は、傷心の中で夫の浮気まで目撃してしまい、眠っていた闘争心に火が付く。当の富豪の主催で、一部の顧客だけに限定公開される伝説の「秀吉の金茶わん」を盗み出す計画を立てるが…。
元になった事件も夫同伴の自首という、のどかな結末となったが、映画の方もいかにも日本らしい「あ・うん」や「なあなあ」が牧歌的な空気を醸し出す。
「断捨離パラダイス」の萱野孝幸監督は、まるでドキュメンタリーのように日時をテロップしてそんな空気にアクセントを付ける。迷路のような会場に加えて、図面や小道具を活用して、美香子の計画の緻密さを印象づける。牧歌的な空気の中で金茶わん奪取計画だけがスリリングに際だっている。
香奈子の芯の強さと金城のしたたかさ、田中と森崎はそれぞれの「内心」をにじませるような好演だ。
劇中には、全国のデパートで実際に「大黄金展」を行っているSGCが実名で登場。金城も幹部社員という設定だ。作品資料を見れば製作に社名がある。
盗難騒動を巡るやりとりが「金界隈(かいわい)」のいい面ばかりを描いているとは思えないが、これも金の魔力の現れというスポンサー企業のおうような姿勢なのだろう。高騰中の「金」にまつわる豆知識もちりばめられている。【相原斎】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「映画な生活」)




