今年も残すところあと数日。2017年もたくさんのニュースがありましたが、なんと言っても今年はセクハラ騒動に揺れた年だったと言えます。

 「映画界のドン」と呼ばれたハリウッドの大物プロデューサー、ハーベイ・ワインスタイン氏が、過去30年以上に渡って、女優やモデル、女性スタッフらにセクハラ行為を行っていたことが発覚したのは10月。ニューヨーク・タイムズ紙がスクープした告発記事が発端でしたが、それ以降は連日のように新たなセクハラ疑惑が浮上し、ブレット・ラトナー監督やダスティン・ホフマン、ケビン・スペイシーら大物俳優も過去のセクハラ行為が暴露されるという事態に発展しました。ワインスタイン氏から被害を受けた中には、アンジェリーナ・ジョリーやグウィネス・パルトロウら有名女優もおり、女優で歌手のアリッサ・ミラノが被害を受けたことのある女性たちに、「Me too(私も)」と声を上げるように呼び掛けたことをきっかけに女性だけでなく、男性たちも過去に受けたセクハラ体験をSNSなどで告白し始めました。この流れは、来年以降も続くと見られ、年明け以降もしばらくはこの話題で持ち切りになりそうです。

 後半はまさにセクハラスキャンダル一色だったと言っても過言ではないハリウッドで今、22日に公開された1本の映画に注目が集まっています。10月末に少年へのセクハラ疑惑が浮上したスペイシーが出演していた「オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド」です。1973年に実際に起きた石油王ジャン・ポール・ゲッティ氏の孫の誘拐事件を映画化した本作でスペイシーは、ゲッティ氏を演じていました。スペイシーは30年以上前に当時14歳だった子役の少年に性的関係を持ちかけたと報じられたことをきっかけに、主演・総指揮を務めるドラマ「ハウス・オブ・カード 野望の階段」から解雇され、12月公開予定だった「オール・ザ・マネー・イン・ザ・ワールド」もお蔵入りの危機に直面しました。しかし、「このまま公開はできない。許されない行為であり、作品に影響してしまう。一人の行為が他の優れた人たちの仕事を邪魔することはあってはいけない」と巨匠リドリー・スコット監督は、スペイシーが出演する全てのシーンをカットし、代役を立てて撮り直すという英断を下したのです。

 すでに撮影は終了していましたが、幸いにも物語の主人公は女優ミシェル・ウィリアムズ演じるゲッティ氏の義理の娘と犯人グループとの交渉役を担う俳優マーク・ウォルバーグ演じるゲッティ氏の部下で、スペイシーは主演ではなかったため、すぐさまクリストファー・プラマーを代役に起用して再撮影を慣行。わずか1か月で完成させ、予定通りの公開にこぎつけました。そして、撮影終了からわずか数日後の今月3日にゴールデン・グローブ賞を審査するハリウッド外国人記者協会向けの特別試写を実施するという神業を成し遂げたスコット監督は、スペイシーの降板から一転、11日に発表されたゴールデン・グローブ賞ノミネーションで監督賞、ウィリアムズの主演女優賞、プラマーの助演男優賞の3部門に名を連ねる快挙を手にしたのです。

 スコット監督はノミネート発表後、「撮影後に予期せぬ挑戦が待ち受けていましたが、公開を楽しみにしている皆さんのことを思い、挑戦することにしました」と語り、助演男優賞で候補入りしたプラマーは、「スコット監督の素晴らしいチームに感銘を受けました。チームは驚異的な偉業を成し遂げ、私もこれまでにない機会に関われたことを嬉しく思います」とコメント。スタジオ幹部さえも「自分より記者が先に映画を観るのは人生初めてのこと」と述べるほど異例の事態でしたが、見事にその苦労が実った本作は、来年1月23日に発表されるアカデミー賞ノミネートにも期待が持たれています。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)