その年の賞レースを占う上で最も重要な賞の一つで、アカデミー賞の前哨戦としても毎年注目されているトロント国際映画祭が今年も9月8日から11日間の日程で行われ、スティーブン・スピルバーグ監督の「ザ・フェイブルマンズ」が、最高賞にあたる観客賞を受賞しました。

トロント国際映画祭は他の映画賞とは違い、審査員による選考ではなく、観客の投票によって最高賞が決まるのが特徴です。映画ファンが選ぶ作品は毎年、翌年に発表されるアカデミー賞にノミネートされる確率が高く、ハリウッドで本格的な賞レースが始まる前にその年のオスカーの行方を占う上でも注目されています。

スティーブン・スピルバーグ監督(18年撮影)
スティーブン・スピルバーグ監督(18年撮影)

近年では、2020年にアカデミー賞作品賞を受賞した「ノマドランド」や18年の「グリーンブック」、13年の「それでも夜は明ける」などがトロントで観客賞を受賞しています。また、ノミネートに限ると、過去10年間で受賞した全ての作品がアカデミー賞作品賞にノミネートを果たしています。

そんなトロント国際映画祭で今年の最高賞に輝いた「ザ・フェイブルマンズ」は、スピルバーグ監督の半自伝的映画で、観客はもとより批評家からも大絶賛され、早くも来年のオスカー本命との呼び声が高まっています。この作品は、スピルバーグ監督の子供時代に基づいたパーソナルな作品であり、巨匠スピルバーグ監督によるスピルバーグ監督についての映画だと言われています。映画館で初めて両親と映画を観て衝撃を受けたことから、映画の世界に魅了され、映画作りにのめり込んでいく子供時代から、映画制作に影響を与えた家族との関係などが描かれており、監督自身と家族へのラブレターでもあります。

エンジニアの父親役を演じたポール・ダノは主演男優賞の呼び声が高いほか、母親役には4度オスカーにノミネートされているベテラン女優ミッシェル・ウィリアムズが起用され、後に映画監督としての才能を開花させる少年をガブリエル・ラベルが演じています。

実はスピルバーグ監督にとって、トロント国際映画祭への参加はこれが初めてで、ワールドプレミアの場にトロントを選んだことについて「映画を愛している人たちに一番初めに観てもらいたかった」と述べています。94年に「シンドラーのリスト」でアカデミー賞作品賞と監督賞、99年に「プライベート・ライアン」で監督賞を受賞したスピルバーグ監督は、昨年は「ウエスト・サイド・ストーリー」で作品賞と監督賞にノミネートされたものの受賞を逃しており、トロントで観客賞を受賞した本作で「プライベート・ライアン」以来3度目、24年ぶりのオスカー獲得となるか、注目が集まっています。

来年1月のアカデミー賞ノミネーション発表までまだ数か月ありますが、現時点で「ザ・フェイブルマンズ」がオスカー候補の大本命に挙げられていますが、他にも今年最大のヒット作となったトム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」やミッシェル・ヨー主演の時空冒険劇「エブリシング・エブリホウェアー・オール・アット・ワンス」、12月公開予定の「アバター」(09年)の続編「アバター:ウェイ・オブ・ウォーター」、トロント映画祭で次点に輝いたサラ・ポーリー監督がミリアム・テーブス氏の同名小説を原作に、宗教コミュニティー内で起きた性暴力事件を描く「ウィメン・トーキング」などもノミネートが確実視されています。

トロント国際映画祭が終わり、これから本格的にスタートする今年の賞レースで、スピルバーグ監督の躍進がどこまで続くのか注目です。2023年のアカデミー賞は、来年1月24日にノミネーションが発表され、授賞式は3月12日にハリウッドのドルビー劇場で開催予定です。

【千歳香奈子】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「ハリウッド直送便」)