1987年(昭62)の初演から30周年を迎えたミュージカル「レ・ミゼラブル」が東京・帝国劇場で上演されている。フランスの作家ユゴーの大河小説のミュージカル版で、上演回数は3000回を超え、今回もチケットは完売という人気ぶりだ。

 85年にロンドンで世界初演の幕を開け、翌86年には日本での上演が発表された。当時の大劇場公演はスター至上主義だったから、主要キャストをオーディションで選び、開幕まで「エコール レ・ミゼラブル」で歌、ダンス、演技を学ぶというシステムは画期的だった。会見からエコールでの稽古、87年6月のプレビューを取材し、本番初日に立ち会った時は、「レ・ミゼラブル」の世界に圧倒され、そのトリコになった。以降、東京公演のたびに複数回見ているし、地方の公演にも出掛けている。ロンドン、ブロードウェーでも見ているから、観劇回数は軽く50回を超えているだろう。

 30年の歴史の中で、延べ600人近い出演者にも多くのドラマがあった。初演から01年まで14年間にわたりジャン・バルジャンを演じた滝田栄は「1回1回、死力を尽くす格闘家の心境で臨んだ」という。そして、「素の自分はどんな人間なのか」と疑問を抱くようになり、自身最後の「レ・ミゼラブル」千秋楽翌日にインドに渡り、2年間も瞑想(めいそう)と座禅の仏道修行した。帰国後は仏像彫刻とボランティア活動に力を入れている。

 バルジャンでは、今井清隆はアンサンブルからジャベールを経て、主役に上り詰めた。かつて演じた石井一孝はマリウスから転じた。マダム・テナルディエ初お目見えの鈴木ほのかは、初演ではコゼットを演じ、その後、ファンテーヌに転じ、今回は16年ぶり参加となる。山本耕史は初演で少年ガブローシュを演じ、その後、マリウスで帰ってきた。人気の高橋一生や浅利陽介も子役時代にガブローシュを演じている。出演者たちも1回でも出演すると、年齢とともに役を替えて戻ってきたいと願うほど、作品への思いは熱い。

 亡くなった出演者もいる。初演からテナルディエを演じた斎藤晴彦さん、97年にエポニーヌ役デビューした本田美奈子さん、99年からマダム・テナルディエで参加した大浦みずきさん。本田さんは05年からファンテーヌを演じる予定だったが、白血病のため降板し、05年11月に38歳の若さで亡くなった。

 今回もエポニーヌに唯月ふうか、コゼットに生田絵梨花など新キャストも多かった。「ピーターパン」のイメージが強かった唯月だが、歌も安定して憂いのあるエポニーヌを造形し、うれしい驚きだった。生田も品のある出色のコゼットで、歴代で最高のコゼットかもしれない。新しい才能が入ることで「レ・ミゼラブル」は進化を続けている。【林尚之】