宝塚歌劇を見始めて40年になる。取材当初のスターと言えば、誰からも愛された鳳蘭。そして、私と同世代の大地真央は、下級生の時から宝塚規格を超えた華やかさがあった。

 最近はタカラジェンヌを直接取材することも少なくなったが、宝塚OGで注目しているのが、元星組トップスターの湖月(こづき)わたる。宝塚時代は174センチの長身を生かしたダイナミックなダンス、「ベルサイユのばら」のフェルゼン、「王家に捧ぐ歌」のラダメスなどの品格ある演技で、光る存在だった。そして、退団後も気になる理由は3つある。

 1つは、06年の退団会見で「大学受験を目指したい」と明かしたこと。中学卒業で宝塚歌劇に入ったため、父親から「高卒の資格を取ってほしい」と言われていたという。退団後も女優として活動する場合、高卒認定試験を受け、さらに大学に通うというのは至難のことに思われた。しかし、彼女は認定試験に合格し、放送大学で心理学、教育学を学んで、5年で卒業した。「興味深いことが多く、やり遂げた充実感があった」。有言実行だった。

 2つ目は、得意なダンス力を進化させていること。世界的に活躍するダンス集団「ザ・ムーブメント」の公演を見て、「一緒にやりたい」とニューヨークで1カ月の特訓を積んで、日本ツアーに参加した。宝塚OGのダンス公演ではタンゴ、フラメンコに挑み、現地でのレッスンを経て、タンゴ、フラメンコのダンサーを相手に、ハイレベルの踊りを披露した。「しっかりと準備をすることで、結果として残せる。ハードルが高いほど、燃えます」。

 3つ目は、夢を追いかける真摯(しんし)な姿勢にある。宝塚OG版「シカゴ」でヴェルマを演じ、16年のニューヨーク公演に参加した。15年の米国カンパニーによる「シカゴ」来日公演ではヴェルマで限定出演した。ヴェルマ役にほれこみ、個人的に英語のせりふのレッスンを続け、そのビデオを見たブロードウェーのプロデューサーに認められて、限定出演につながった。ブロードウェーにも友人ができた。会うたびに、「いつこっちに来るんだ」と言われるという。湖月は「常に目標を持って生きたいと思ってます。それに向かって、自分がどれだけ頑張ることができるか。ブロードウェーは、今も大きな目標です」。

 現在、東京国際フォーラムで、彩輝なお、壮一帆ら宝塚OGと男性ボーカルグループ「ル ヴェルヴェッツ」と共演する「ショー・ストッパーズ!!」に出演している。「ラ・カージュ・オ・フォール」の「マスカラ」、「蜘蛛女のキス」「ピープル」など、人間力を求められる歌から、男っぽくきめる歌、コミカルな歌、英語で歌う歌と、多様な曲に挑んでいる。湖月は「ゴージャスでハートフル、スタイリッシュなショーです。心を込めて歌います」。公演は8日まで行われている。【林尚之】