八千草薫さん(88)が「がん」であることを公表し、出演予定だったドラマ「やすらぎの刻(とき)~道」(4月スタート)を降板したことには驚いた。

八千草さんは一昨年12月に膵臓(すいぞう)がんが見つかり、摘出手術を受けた。その後、抗がん剤治療などを受けながら回復し、8・9月に舞台「黄昏」に主演している。実は、稽古場で取材し、公演も見ていたけれど、そんな大病の後とはまったく気が付かなかった。関係者によると、共演者はもちろん、舞台関係者も八千草さんの「がん」を知らなかったという。

舞台に立つため足腰のトレーニングも欠かさず「トレーナーさんに、筋肉のトレーニングの運動を考えていただいて、腕や肩を回したり、片足立ち、つま先立ちなどの体操も寝る前に15分ほどしています。血の巡りもよくなって、ぐっすり眠れるんです」と話していたし、高齢のため心身に不安を抱える夫を優しく支える妻エセルの役をせりふもしっかりと演じる姿に「八千草さんはすごい女優さんだな」との思いを新たにしていた。

しかし、八千草さんは体力的にギリギリの状況で舞台を務めていたという。無事に千秋楽を迎えた直後には「もう舞台は卒業しようかしら」と、珍しく弱音をつぶやいたほどだったという。年末には、九条摂子役で出演する「やすらぎの刻(とき)」の撮影に参加したが、年明けに熱が出て、病院で診察を受けた結果、肝臓がんが見つかった。

当初、降板を発表する時、「がん」という病名を出すことに、事務所関係者は反対したという。しかし、70年におよぶ長い女優生活で初めてとなる降板に責任を感じた八千草さんは「包み隠さず、すべてを伝えたい」と言い、結局、公表することにしたという。

また、降板に難色を示し、仕事の続行を希望したそうだが、これも主治医の説得で、降板を了承したという。親交のある倉本聡さんの作品とあって、ドラマにかける思い入れも人一倍強かった。肝臓がんと分かった時に、真っ先に相談したのも倉本さんだった。舞台前の取材で、八千草さんは「無理をすると、周りに迷惑をかけてしまいますけれど、ちょっと無理をしないと、生きている実感も得られない。無理のし過ぎに気を付けて、これからも、ちょっとだけ無理をしてやっていきたいですね」と話していた。

公表後、所属事務所には励ましのメール、手紙が数多く寄せられた。事務所の公式サイトでも「八千草はこれから、静かに穏やかに生活して治療に努めさせて頂きます」と報告した。今は無理をせず、ゆっくりと治療と静養に専念して、また元気な姿で戻ってきてください。みんな、その日を待っています。

【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)