歌舞伎俳優で、市川海老蔵(43)ほど、何かと話題となる人はいないだろう。最近もネットで、週刊誌で騒がれていた。

海老蔵が座長の「海老蔵歌舞伎」が5月29、30日に東京・明治座、6月4日から京都・南座(13日まで)で上演され、その中の新作「KABUKU」で「差別」騒動があった。私は見ていないけれど、初日を観劇した人によると、地獄の場面で日本人、米国人、中国人などを思わせる人物が登場し、中国人が衛生面で気を付けずに飲食したためコロナに感染し、広めたと言われるシーンがあったという。直後、明治座で見た人からネットで「差別ではないか」などの指摘があり、それを読んだ人たちがリツイートして一気に拡散し、松竹にも問い合わせが来たという。松竹によると、この場面は地獄に落ちてまで、自己中心的に主張を繰り広げ、他者を受け入れようとしないで互いに争いを続けることを描いたものという。松竹は「風刺的に描こうとした演出意図と異なるお客様のとらえ方を招いてしまった」として、4日の南座公演からは中国人が登場しないなど演出を急きょ変更した。

この騒動は、ネットだけでなく、一部の全国紙にも掲載された。実際に見ていないので、これが「差別」かどうか言及できないけれど、1つ確かに言えるのは、海老蔵という歌舞伎界きっての人気者の作品だったゆえに注目され、騒動にもなったということだろう。

それは、週刊誌の実家の売却報道にも言える。一部の女性週刊誌は、都内の一等地にある海老蔵の実家が売却されたことをめぐって、海老蔵と実母が対立し、2人の間に亀裂が入っていると報じた。それに対し、海老蔵は自身のブログで「私の母は優しい純粋な人です」「人を傷つける行為をやめてください」と怒りをにじませて反論した。これも海老蔵だから、報道も過熱したのだろう。ちなみに、報道では海老蔵の公演があった劇場ロビーに母の姿がなかったことが確執を裏付ける証拠としているけれど、コロナ禍で密を避けるため、かつてのように梨園(りえん)の妻たちがロビーにいる光景はすでにありません。

歴代の市川團十郎は歌舞伎界を代表する大きな存在だったけれど、それゆえに様々な軋轢を抱えて、苦労した人も多かった。今の海老蔵を見ていると、「團十郎」を襲名する人だけに降りかかる「宿命」みたいなものも感じます。【林尚之】(ニッカンスポーツ・コム/芸能コラム「舞台雑話」)